ムツヤはドキリとし、流石にモモも冷や汗をかいた。

 モモは今の情報を元に、適当な作り話をして古物商にでも売り渡そうかと考えていたので、突然のことに思考が停止する。

 ムツヤは別に後ろめたい事は無かったが、拾ったという事を当てられて言葉が出てこなくなった。

「お、俺はその剣を売っで鎧とが剣とが、冒険者の必要なものを買っで! 冒険者になりたいんです!」

 ムツヤは本心を話してみる、するとふーんとギルスは言った後に続ける。

「まー家庭の事情ってそれぞれだから深くは言わないけどさ、俺は金にさえなれば何でも良いからね。君にはだいぶ不利だけどこの剣3万バレシ……」

 そこまで言って一旦ギルスは言葉を止めた。

「だけじゃ流石に俺も『大通りの肥溜め以下の悪徳商人』みたいになっちまうから、金とは別にこの店の好きな剣と防具をどれでも一つずつプレゼントでどうだい?」

「あ、ありがとうございます!」

 ムツヤはパァーッと笑顔になって感謝の言葉を口にし、やっとギルスはタバコを味わうことが出来た。

「いやいや、むしろお礼を言うのはこっちの方なんだけどね…… お金の準備をしておくから適当に選んでてよ」

 厳重に鎖で繋がれている剣、壁に立てかけられている剣、色々な形の剣があったが、ムツヤは木箱の中に適当に入れられた何本かの剣に注目する。

 見つけた途端大声を上げそうになるが、自制し小声でモモに話しかけた。

「モモさんモモさん、これ塔の中にあるやづですよ! 斬ると炎が出てくるやつ!」

 確かに先程までムツヤが腰に下げていた剣にそっくりだ、使っている所は見たことがなかったが。

 だがそんな貴重なそんな物が1本3000バレシで投げ売りされているはずが無いことだけはわかった。

「多分それはよく似た別物でしょう、それよりどうせでしたら値の張る良い武器を」

 モモの言葉を完全に無視してムツヤは見覚えのある武器を手に取っているのを見てあぁ、絶対に「これが良い」って言うんだろうなと察しが付く。

 仕方がないから鎧だけでも何か良い物を見繕うことにする。

「ムツヤ殿、鎧はこちらと……こちらではいかがでしょうか?」

 モモは2つの鎧を指差す、片方は重厚な銀色の鎧だ。値段は20000バレシ、この店では一番良い鎧だろう、手入れもしっかりとされている。

 もう一つは革を何層にも重ねて急所にだけ鉄板を仕込んだ軽い鎧だ。こちらの値段は10000バレシと少し安めだ。

 留め金の赤サビが気になるが、動きやすさを好むムツヤには気に入りそうな一品だ。

「うーんと、そっちの革の方がいいですかねー」

 やはりムツヤは動きやすい鎧を選んだ。すると丁度店の奥から金を用意したギルスがやってきた。

「はいはい、お決まりのようで。って、鎧はまぁ分かるけど剣は本当にそれで良いのか?」

 ムツヤが手にとってカウンターまで来た剣を見てギルスはそう言った。安物で済むのであれば売上的には喜ばしいことだが……

「はい、気に入っだので!」

 まぁ客がそう言うなら良いかと、ギルスはせめてその剣の説明だけはしてやることにする。

「その剣は魔剣『ムゲンジゴク』って奴のレプリカだ。レプリカつっても本物は誰も見たことが無いから形が正しいのかは誰も知らないけどね~、何でも本物は斬りつけたら相手が火だるまになるらしい」

「へぇ~」

 剣が伝説の魔剣のレプリカである事と、本物の魔剣はまるで子供が自由に考えた空想のような効果を持つことに対しての生返事だとギルスは思っていた。

 しかし、実際はムツヤの間抜けな返事は最近愛用していた剣の名前を知ったことに対するものだ。

 『何当たり前のように伝説の魔剣を持っているんですかムツヤ殿!』とモモは心の中でツッコミを入れていた。

「鎧は特に由来も何も無い、ただの上質な革鎧だ。それじゃ取り引き成立って事でいいかな?」

 さっと右手を出してきたギルスの手にハッと気付いて今度はしっかり握った。

「はい、ありがとうございます!」

 ニッとギルスは笑って手を離した後に、少し真面目な表情をしてムツヤに語りかける。

「それとムツヤくん。これは友人としての忠告だけど、好きなものを持っていっていいと言われたら高価なもんを持っていくか、使わなくてもゴネて盾も貰っちまえば良いんだ、そしてどっか別の場所で売ればいい」

 そこまで言ってギルスは少し間をおく。