卒業式では自分の名前が呼ばれて卒業証書を受け取るとき、手が震えた。学年で選んだ今流行りの卒業ソングを歌えば、目頭が熱くなった。何度も込み上げてくる熱いものを、私は思い出の溢れる青春と共にひたすら飲み込んだ。

そして念のため持ってきた琴乃とお揃いの司から貰った桜柄のハンカチは何とか使わずに済んだ。

──私は人前で泣くのが嫌いだ。理由は一度泣いたら涙が止まらなくなるからだ。小学校の頃は転んだだけで、いつまでも泣き続ける私を司と琴乃が交代で頭をポンポンしてくれたことをふと思い出す。いつだって私の隣には琴乃がいて隣のとなりには司がいた。でも明日からは、二人とは別々の道だ。



「由花ー、笑ってー」

私は教室で担任の先生や友達への感謝の文字で溢れかえっている黒板をバックに、仲の良かった友達と最後を名残惜しむかのように卒業証書の入った筒を片手に笑顔で写真を撮っていく。
いくら撮っても、何度ありがとうと言い合っても最後だと思うと名残惜しい。



「おーい、由花」

聞き慣れたその声に振り返れば、ほとんどボタンの取れた学ランを着た司が教室扉から顔を出している。

「あ、司」

「もうちょいかかる?待っとこうか?」

「ううん、すぐいく」

途端に心臓が早くなる。司がこうやって私を教室に呼びにくるのは最初で最後だからだ。

私はクラスメイトに「また夜の打ち上げでね」と伝えると鞄をもって司の元へ慌てて向かった。