「ふふっ…由花と手を繋いで登校とか久しぶり」

「でしょ?最後だしいいかなって」

唇を持ち上げた私を見ると琴乃が大きな瞳を細めながら、私の掌を強く握りしめた。

そして校門を潜ると琴乃が私をじっと見つめた。

「ん?どしたの?琴乃?これ、やっぱ恥ずかしいとか?」

私が互いに握っている掌に視線を移すと琴乃がすぐに首を振った。

「違うの、あのね、由花に一つお願いごと頼んでいい?」

「え?お願いごと?」

「うん……えとね」

「どしたの?私にできることなら何でもいって?」

琴乃は一瞬空を見ながら小さな唇を開いた。

「……卒業式終わったら、今日だけ司と帰ってもらえないかなって」

「え?司と?」

「うん……私ね卒業式終わったら水泳部の後輩達がお別れ会してくれるから、司とは帰れないの。だから最後に司と二人で帰ってもらえたらなって……ダメかな?」

「うーん……」

(司と一緒に帰れるなら……好都合ではあるけれど……)

私は念のため鞄にいれてきたソレのことが頭を過ぎった。そもそも渡すタイミングも考えていなかったし、そんなタイミングはないと思っていた。でも溜め込んでいた想いを伝えるのなら今日が最後のチャンスだと思うと、つい夜なべして、結局鞄にいれてきてしまった。

「由花、私からの最後のお願いダメ?」

「ダメって訳じゃないんだけど……」

「お願いっ、司と帰ってあげて?」

なかなか返事をしない私に眉を下げて両手でお願いポーズをしている由花を見ながら、私は「しょうがないなぁ」と笑って頷いた。