「桜、ひとつふたつ咲き始めたね」

久しぶりの二人きりの空間に少しだけ緊張した私は、見慣れた通学路に並ぶ桜を指差した。

「うん、本当だね、綺麗。でも由花とみる桜が最後かも知れないと思うとちょっぴり寂しいな」

「琴乃?」

「だって……今まで司と由花と幼稚園からずっと一緒だったけど、今日でこの通学路とも由花と通うのも最後だから……」

琴乃の声がいつもより震えていて目尻に涙が浮かんでいるのが見える。

「琴乃泣かないで……。今までいつも隣でなんでも相談にのってくれて、いつもどんな時でも味方してくれて……いつも私の一番の友達でいてくれてありがとう」

私は心からの感謝の気持ちをありのまま琴乃に伝える。私にとっては、司も琴乃も本当に特別で大切な存在だから。

「こちらこそ……由花には……感謝してもしきれないよ。部活で水泳のタイムが伸びなくて悩んでた時も……今年の夏、司と付き合うことができたのも……いつも自分のことのように一緒に悩んで、考えてくれて、最後はいつも背中を押してくれて……。由花、本当にありがとう」

琴乃がポケットから桜柄のハンカチを取り出すと目尻を拭いながら笑った。そのハンカチはいつかのバレンタインのお返しに司が私と琴乃それぞれにお揃いでくれたハンカチだ。

「もう、琴乃は泣き虫だなぁ。ほら泣かないよ?いまから卒業式でまた泣くんだから、涙はとっておかないと」

そう言って私は久しぶりに琴乃の掌を握った。