店の表の格子戸から女性客が出ていくと、それと入れ違いに、調理場の裏の戸から男がひとり入ってきた。
といっても、見た目はまだ十代の少年だ。黒い髪に、琥珀色の瞳。よく見れば、肩甲骨の辺りから黒い鳥の羽のようなものがふたつ生えている。
人間離れした容姿をした少年は、両手いっぱいに野菜や果物や肉や魚。ありとあらゆる食材を抱え込んでいた。
「ただいま戻りました。縁様」
少年は背中に広げた羽を器用に折りたたむと、菫色の瞳をした店主の前で畏まって頭を垂れた。
「おかえり。今日もありがとう」
店主は眦をさげて微笑むと、少年が両手いっぱいに抱えている食材をひとつひとつ丁寧に取り上げる。
「お前のおかげでいつも助かってるよ。迅烏」
迅烏と呼ばれた少年は、店主の労いの言葉に、煩わし気に眉をしかめた。
「あなたのおかげで、私はいつも国中を飛び回らなければならず苦労しております」
「お前は種族の中でも一番に速く飛ぶことができるからな。俺のそばに置くのに、お前以上の適任はいない」
「それは、そうかもしれませんが」
店主がゆるやかに微笑みながらおだてると、迅烏はまんざらでもなさそうな顔をした。