人通りの多い駅前を離れ、コンクリートで整備された細い川沿いの道をずるずると歩きながら、永見董子は浅いため息を吐いた。

 デスクワークがメインの今の仕事は、立ち仕事がメインだった前職と比べると体力的な負担は少ない。それなのに、董子の足は鉄球の付いた足枷を嵌められているかのように重かった。

 数ヶ月前、転職活動のために登録した人材紹介会社から勧められて董子が入社したのは、小さな機械部品メーカー。

 大学を出たあとアパレルブランドの店舗スタッフとして働いていた董子は、接客のためのトーク技術と服に関する知識はあったものの、パソコンに関するスキルや知識にはあまり自信がなかった。

 人材紹介会社から勧められた機械部品メーカーの経理事務の仕事に董子が難色を示すと、少し年上だと思われる担当のキャリアコンサルタントが、董子の背中を押すように微笑んだ。

「未経験可のお仕事なので、あまり構えることはないですよ。教育体制のしっかり整った、アットホームな会社だと人事の方もおっしゃってましたし」

 董子には、自分が流されやすい性格だという自覚があった。

 これまでの人生で、他人の言葉に流されて失敗し、後悔したことが何度もある。だから、気を付けなければいけない。

 常々そう思って生きているつもりなのに――。

 優しい言葉をかけられれば、ふと気が緩む。