「ここは」
意識を取り戻す。
「目を覚ましたようだな」
声の方へ視線を向けると、保健室で出会った少年がいた。
「キミは」
「自己紹介がまだだったか?だったら、尋ねたお前から名乗るべきじゃないか?」
正論だと思って僕は名乗る。
「……雲川丈二」
「良い名前だな。俺の名前は新城凍真だ」
ニヒルな笑いというべきなのだろうか、そういう表情をして彼は名乗る。
「ここは、どこなの?それに、僕が呪われているってどういうわけ?」
「意外と冷静で安心したよ。本題に入る前に説明が一つ」
彼が教えてくれた内容は僕の想像を超えたものだった。
「この世界には人以外にも妖怪や幽霊、様々なものが存在する。呪いというようなもの、そういうすべてを怪異と呼ばれている。そして、俺は怪異を祓う生業である祓い屋を営んでいる」
説明すべてを飲み込んだわけじゃないけれど、嘘をついていないことは何故かわかった。
「陰陽師みたいなもの?」
「陰陽師ぃ?」
僕が言うと彼は顔を顰める。
失礼な事を言っただろうか?
「そんなものはとっくの昔に全滅した」
「ぜ、全滅?」
「長い歴史の中のある部分において突如、存在が消失した。理由はわかっていない。陰陽師の使っていた術のすべてが失われて、今や俺達、祓い屋や霊能力者、退魔師なんていう、名称不特定対数が存在している。ゆっくりと説明をしてやりたいが、時間がない。ついてこい」
僕の手を掴んで彼は歩いていく。
木造建築の二階建てみたいで、階段を下りていく。
「あ、そうそう」
思い出したように彼が僕へ視線を向ける。
「今いる場所は俺達が住んでいる場所じゃないから驚いて悲鳴を上げたりするなよ?」
「え?」
手を引っ張られながら引き戸を開けた先。
そこは別世界だった。
「どこ、ここ?」
広がる夜空。
その下で和気藹々としている人ならざるもの。
絵本でみたような妖怪もいれば、全く知らない存在までいた。
「何、ここ?」
「妖界。妖怪達が住まう世界」
「なんで、ここへ僕を?」
「理由は三つ」
彼は指を三つだす。
「一つは口でいっても信じないだろうから実力行使、二つはお前の呪いを解呪する為に必要なものがここにしかないから、三つ目」
「三つ目は?」
「まだ教えない」
ニヒヒと笑うと彼は僕の手を引いて歩いていく。
妖怪たちの中を歩いているというのに、不思議と緊張等の類はなかった。
どちらかというと彼に対して妖怪達が警戒しているように思える。
「ここだ」
しばらくしてある建物の前で立ち止まる。
「ここは?」
「漢方薬を扱う婆ちゃんの家、すぐに戻ってくるから待っていてくれ。くれぐれも不用意な事をするなよ?」
「不用意な事って」
「わからないならいい……行ってくる」
引き戸を開けて彼は中に入る。
「おい、婆ちゃん、いるかぁ?」
新城は引き戸を開けて中に入る。
室内は薄暗く、たくさんの木造の棚が並び、その上に大小、様々な瓶が置かれていた。
「誰が婆ちゃんじゃ、わたしゃまだ600歳じゃ!」
怒りながら現れるのは下半身が蛇の妖怪。
肩や頬に骨が浮き出ている。
「人間でいえば、最高年齢超えているからな。まぁいい……十年以上超えて変質している呪いを解呪する薬、くれないか?」
「それ、何に使うつもりだい?」
「人間相手だよ」
新城の言葉に呪いを解呪する漢方薬を取り扱う蛇骨婆は笑う。
「バカいっちゃいけないよ!変質した呪いは受けた人間の命を奪う危険なものだい、人間がそんなものを受けて生きていられるわけないじゃないか!」
呪いというのは人に不幸をもたらすものから命を奪うものまで様々ある。
しかし、ほとんどの呪いの効力が長く続かない。
人間の生命が短いというものもあるが、十年、二十年も呪いが生き残っていた場合、それは変質し、より危険なものに変貌する。
「その生きている人間がいるから必要なんだよ。見た時は自分の目を疑ったくらいだ。手持ちの道具じゃ、解呪できないからな」
「アンタが嘘をつく事はないだろうからね。待ってな」
ずるずると尾を動かしながら棚からいくつかの壺を手に取って作業台へ置く。
「ところで、その人間はどうしているんだい?」
「外で待たせている」
「へ!?ここへ連れてきたというのか!?」
驚いた顔をする蛇骨婆に新城は頷く。
「アンタ、人間を妖界へ連れていくって、正気かい?そもそも、呪いで精神が狂っている危険性だってあるんだ……いや、まさか、アンタ」
蛇骨婆の話が中断してしまうほどの大きな音が響いた。
「なんだ?」
「また喧嘩さね……近頃、周辺に赤鬼が出るようになったからね」
「赤鬼ねぇ……どんな連中だったっけ?」
「アンタは本当に……赤鬼はこの妖界で三大勢力の一角さね。強靭な肉体と妖力を持っているも、闘争本能が高いから暴れたりしないと落ち着かない連中だよ。後は、人間を見たら喧嘩をふっかけたりとねぇ」
「人間に、喧嘩ねぇ……あ、ヤベ」
「どうしたんだい」
「外にアイツ、置いてきた」
しばらく沈黙が場を支配した後。
二人は慌てて外へ飛び出した。
そして、目の前の光景に絶句する。
「マジかい」
「…………ハハッ」
言葉を失う蛇骨婆の横で新城凍真は笑う。
赤鬼三人を傷だらけになりながら倒していく雲川丈二の姿。
「見つけた」
意識を取り戻す。
「目を覚ましたようだな」
声の方へ視線を向けると、保健室で出会った少年がいた。
「キミは」
「自己紹介がまだだったか?だったら、尋ねたお前から名乗るべきじゃないか?」
正論だと思って僕は名乗る。
「……雲川丈二」
「良い名前だな。俺の名前は新城凍真だ」
ニヒルな笑いというべきなのだろうか、そういう表情をして彼は名乗る。
「ここは、どこなの?それに、僕が呪われているってどういうわけ?」
「意外と冷静で安心したよ。本題に入る前に説明が一つ」
彼が教えてくれた内容は僕の想像を超えたものだった。
「この世界には人以外にも妖怪や幽霊、様々なものが存在する。呪いというようなもの、そういうすべてを怪異と呼ばれている。そして、俺は怪異を祓う生業である祓い屋を営んでいる」
説明すべてを飲み込んだわけじゃないけれど、嘘をついていないことは何故かわかった。
「陰陽師みたいなもの?」
「陰陽師ぃ?」
僕が言うと彼は顔を顰める。
失礼な事を言っただろうか?
「そんなものはとっくの昔に全滅した」
「ぜ、全滅?」
「長い歴史の中のある部分において突如、存在が消失した。理由はわかっていない。陰陽師の使っていた術のすべてが失われて、今や俺達、祓い屋や霊能力者、退魔師なんていう、名称不特定対数が存在している。ゆっくりと説明をしてやりたいが、時間がない。ついてこい」
僕の手を掴んで彼は歩いていく。
木造建築の二階建てみたいで、階段を下りていく。
「あ、そうそう」
思い出したように彼が僕へ視線を向ける。
「今いる場所は俺達が住んでいる場所じゃないから驚いて悲鳴を上げたりするなよ?」
「え?」
手を引っ張られながら引き戸を開けた先。
そこは別世界だった。
「どこ、ここ?」
広がる夜空。
その下で和気藹々としている人ならざるもの。
絵本でみたような妖怪もいれば、全く知らない存在までいた。
「何、ここ?」
「妖界。妖怪達が住まう世界」
「なんで、ここへ僕を?」
「理由は三つ」
彼は指を三つだす。
「一つは口でいっても信じないだろうから実力行使、二つはお前の呪いを解呪する為に必要なものがここにしかないから、三つ目」
「三つ目は?」
「まだ教えない」
ニヒヒと笑うと彼は僕の手を引いて歩いていく。
妖怪たちの中を歩いているというのに、不思議と緊張等の類はなかった。
どちらかというと彼に対して妖怪達が警戒しているように思える。
「ここだ」
しばらくしてある建物の前で立ち止まる。
「ここは?」
「漢方薬を扱う婆ちゃんの家、すぐに戻ってくるから待っていてくれ。くれぐれも不用意な事をするなよ?」
「不用意な事って」
「わからないならいい……行ってくる」
引き戸を開けて彼は中に入る。
「おい、婆ちゃん、いるかぁ?」
新城は引き戸を開けて中に入る。
室内は薄暗く、たくさんの木造の棚が並び、その上に大小、様々な瓶が置かれていた。
「誰が婆ちゃんじゃ、わたしゃまだ600歳じゃ!」
怒りながら現れるのは下半身が蛇の妖怪。
肩や頬に骨が浮き出ている。
「人間でいえば、最高年齢超えているからな。まぁいい……十年以上超えて変質している呪いを解呪する薬、くれないか?」
「それ、何に使うつもりだい?」
「人間相手だよ」
新城の言葉に呪いを解呪する漢方薬を取り扱う蛇骨婆は笑う。
「バカいっちゃいけないよ!変質した呪いは受けた人間の命を奪う危険なものだい、人間がそんなものを受けて生きていられるわけないじゃないか!」
呪いというのは人に不幸をもたらすものから命を奪うものまで様々ある。
しかし、ほとんどの呪いの効力が長く続かない。
人間の生命が短いというものもあるが、十年、二十年も呪いが生き残っていた場合、それは変質し、より危険なものに変貌する。
「その生きている人間がいるから必要なんだよ。見た時は自分の目を疑ったくらいだ。手持ちの道具じゃ、解呪できないからな」
「アンタが嘘をつく事はないだろうからね。待ってな」
ずるずると尾を動かしながら棚からいくつかの壺を手に取って作業台へ置く。
「ところで、その人間はどうしているんだい?」
「外で待たせている」
「へ!?ここへ連れてきたというのか!?」
驚いた顔をする蛇骨婆に新城は頷く。
「アンタ、人間を妖界へ連れていくって、正気かい?そもそも、呪いで精神が狂っている危険性だってあるんだ……いや、まさか、アンタ」
蛇骨婆の話が中断してしまうほどの大きな音が響いた。
「なんだ?」
「また喧嘩さね……近頃、周辺に赤鬼が出るようになったからね」
「赤鬼ねぇ……どんな連中だったっけ?」
「アンタは本当に……赤鬼はこの妖界で三大勢力の一角さね。強靭な肉体と妖力を持っているも、闘争本能が高いから暴れたりしないと落ち着かない連中だよ。後は、人間を見たら喧嘩をふっかけたりとねぇ」
「人間に、喧嘩ねぇ……あ、ヤベ」
「どうしたんだい」
「外にアイツ、置いてきた」
しばらく沈黙が場を支配した後。
二人は慌てて外へ飛び出した。
そして、目の前の光景に絶句する。
「マジかい」
「…………ハハッ」
言葉を失う蛇骨婆の横で新城凍真は笑う。
赤鬼三人を傷だらけになりながら倒していく雲川丈二の姿。
「見つけた」