日曜日。
事前に父さんと母さんへ出かける事は伝えていた僕は足早に家を出る。
待ち合わせ場所である公園に到着した。
出かける際に声をかけたけれど、反応がない。
油目が来れば、玄関まで迎えや見送りにきているのに。
一度、声を大にして打ち明けてみたけれど、結果は良いものではなかった。
両親の関心の中に僕はいない。
わかりきっていることだ。
「待ち合わせより十分も早く来たけれど」
「あ、早いね!」
入口から手を振ってやってくる明日夢さん。
いつも見ている制服姿ではなく短パンに動きやすい服装は明るい彼女の性格にピッタリしているように思えた。
「おはよう」
「今日は良い天気だね!」
「うん」
挨拶をして二人で遊園地に向かう。
「雲川君、遊園地は?」
「小さい頃に一回だけかな?明日夢さんは?」
「初めてなの!だからとても楽しみで!」
笑顔を見せてくる彼女の姿はとても眩しくて、みているこちらまで楽しい気持ちになってくる。
こんなことは初めてだ。
遊園地の入口でチケットをみせて園内へ。
親子連れやカップル等、たくさんの人達が遊園地で楽しそうにしている。
その中に僕がいるという事に違和感があった。
「ほら、楽しもう!」
僕の手を掴んで明日夢さんが走り出す。
転ばないように気を付けながら彼女の後を追いかける。
ジェットコースター、ゴーカートをはじめとしていろんなものを乗っていく。
流石にメリーゴーランドは恥ずかしいなと思いつつも、終始、笑顔の彼女をみていると恥ずかしさもどこかに消えていた。
楽しい時間があっという間に終わるというのは本当らしい。
「最後に観覧車へ行こう!」
閉園時間が近づいている中、明日夢さんに手を引かれて観覧車へ乗り込む。
ゆっくりと回る観覧車。
周りを見ると家族よりもカップルが多い。
夕焼けに照らされる街を見下ろしていると感動した気分になる。
「観覧車って、恋愛ドラマや漫画で乗っている事が多いから一度、体験してみたかったんだよ」
「そうなんだ?」
向かい合う形で座る僕と明日夢さん。
「こういう当たり前だけど、大事な事って、とっても好きなんだ」
「当たり前だけど、大事な事が?」
戸惑う僕に明日夢さんは話す。
「うん。そういうことって当たり前だから忘れがちかもしれないけれど、大事だとボクは思うんだ。そして、いつかそういうことを大切な思い出と思えるのがボクの夢」
「……明日夢さんの夢?」
「うん」
密室で二人っきりという状況だけど、僕達はいつも通りに話をしていた。
いつもと違ったのは終わりが近づいた時だった。
「ねえ、雲川君は彼女っている?」
「……いない」
嘘じゃない。
油目は幼馴染なだけだし、好きとかそういう感情は持っていない。
ただ、僕の両親が大事にしているから一緒にいるだけだ。
「そっか、じゃあ」
彼女が何かを言おうとした時、僕達は地上に到着した。
「時間切れだね」
「え?」
「降りよっか」
明日夢さんの後に続く形で観覧車を降りる。
そのまま、遊園地を出た。
会話がないまま、僕達は遊園地から最初の待ち合わせ場所だった公園に向かっている。
「あれ、ジョーちゃん!?」
聞こえた声に僕は歩みを止める。
振り返ると油目くるみが立っていた。
帰宅途中だったんだろうフリル等がついた派手な私服姿だ。
「その子、誰?」
「……」
面倒な事になったな。
「塾だったんだよね?」
なんというべきか悩んでいると彼女は俯く。
「嘘、ついたんだ」
顔を上げた彼女はギロリと僕、ではなく。
明日夢さんを睨んでいた。
「この、泥棒猫!」
怒りで顔を染めながらずんずんと明日夢さんに駆け寄って彼女は手を振り上げる。
「!!」
油目が何をしようとしたのかわかった僕は駆け寄り、手を掴む。
「何を、やっているんだ」
僕の声は震えていた。
「ジョー、ちゃん?顔、怖いよ?」
怒りで油目を掴む手に力がこもる。
「何を、しようとしたんだ?」
「痛い、痛い!」
「彼女がお前に何かをした訳じゃないだろ!」
「雲川君!落ち着いて、ボクは大丈夫だから!」
明日夢さんが自由な方の僕の手を掴む。
今にも泣きそうな顔をしている彼女に気付いて、僕は油目を掴んでいる手を離す。
「ジョー君!その女を庇うの!?」
「明日夢さんは悪くない。なんで彼女を一方的に悪者なんかにするんだ」
「許せない。くるみは怒ったからね!」
叫んだ彼女はそのまま走り去っていく。
「えっと、僕の知り合いがごめん」
僕は呆然としている明日夢さんへ謝罪した。
今回の件で幼馴染という事にひどく嫌悪感を覚えて、知り合いと伝えて謝罪する。
「え?ううん、驚いただけだから大丈夫。えっと、彼女は?」
「幼馴染……僕の両親が彼女を気に入っていてね。それがずるずると続いて今になるんだ」
「そう、なんだ?悪い事しちゃったかな?」
「そんなことないよ!一方的に絡んだあの子が悪い。明日夢さんは被害者だから……それに、怒った僕を止めようとしてくれたでしょ?」
「あ、ほら、なんというか雲川君が別人みたいに怒っていたから止めないと!って思っちゃって」
そこからお互いに謝罪を繰り返していたけれど、最後は笑いながら「喧嘩両成敗みたいな感じにしよう!」という彼女の言葉で終わりとなった。
「じゃあ、またね?」
「あ」
背を向けて歩き出す明日夢さん。
僕は彼女に声をかけようとして止める。
何を言うんだ?
僕は彼女みたいに明日に希望を持っている訳でも、夢すら持っていない。
そんな自分に太陽のような彼女へ何も言うことなんて。
「雲川君!」
「え?」
「また塾で会おうね!メッセージで話しようね!」
――またね!
そういって彼女は去っていく。
「僕も」
彼女みたいに希望や夢を持ったような人間になれるだろうか?
事前に父さんと母さんへ出かける事は伝えていた僕は足早に家を出る。
待ち合わせ場所である公園に到着した。
出かける際に声をかけたけれど、反応がない。
油目が来れば、玄関まで迎えや見送りにきているのに。
一度、声を大にして打ち明けてみたけれど、結果は良いものではなかった。
両親の関心の中に僕はいない。
わかりきっていることだ。
「待ち合わせより十分も早く来たけれど」
「あ、早いね!」
入口から手を振ってやってくる明日夢さん。
いつも見ている制服姿ではなく短パンに動きやすい服装は明るい彼女の性格にピッタリしているように思えた。
「おはよう」
「今日は良い天気だね!」
「うん」
挨拶をして二人で遊園地に向かう。
「雲川君、遊園地は?」
「小さい頃に一回だけかな?明日夢さんは?」
「初めてなの!だからとても楽しみで!」
笑顔を見せてくる彼女の姿はとても眩しくて、みているこちらまで楽しい気持ちになってくる。
こんなことは初めてだ。
遊園地の入口でチケットをみせて園内へ。
親子連れやカップル等、たくさんの人達が遊園地で楽しそうにしている。
その中に僕がいるという事に違和感があった。
「ほら、楽しもう!」
僕の手を掴んで明日夢さんが走り出す。
転ばないように気を付けながら彼女の後を追いかける。
ジェットコースター、ゴーカートをはじめとしていろんなものを乗っていく。
流石にメリーゴーランドは恥ずかしいなと思いつつも、終始、笑顔の彼女をみていると恥ずかしさもどこかに消えていた。
楽しい時間があっという間に終わるというのは本当らしい。
「最後に観覧車へ行こう!」
閉園時間が近づいている中、明日夢さんに手を引かれて観覧車へ乗り込む。
ゆっくりと回る観覧車。
周りを見ると家族よりもカップルが多い。
夕焼けに照らされる街を見下ろしていると感動した気分になる。
「観覧車って、恋愛ドラマや漫画で乗っている事が多いから一度、体験してみたかったんだよ」
「そうなんだ?」
向かい合う形で座る僕と明日夢さん。
「こういう当たり前だけど、大事な事って、とっても好きなんだ」
「当たり前だけど、大事な事が?」
戸惑う僕に明日夢さんは話す。
「うん。そういうことって当たり前だから忘れがちかもしれないけれど、大事だとボクは思うんだ。そして、いつかそういうことを大切な思い出と思えるのがボクの夢」
「……明日夢さんの夢?」
「うん」
密室で二人っきりという状況だけど、僕達はいつも通りに話をしていた。
いつもと違ったのは終わりが近づいた時だった。
「ねえ、雲川君は彼女っている?」
「……いない」
嘘じゃない。
油目は幼馴染なだけだし、好きとかそういう感情は持っていない。
ただ、僕の両親が大事にしているから一緒にいるだけだ。
「そっか、じゃあ」
彼女が何かを言おうとした時、僕達は地上に到着した。
「時間切れだね」
「え?」
「降りよっか」
明日夢さんの後に続く形で観覧車を降りる。
そのまま、遊園地を出た。
会話がないまま、僕達は遊園地から最初の待ち合わせ場所だった公園に向かっている。
「あれ、ジョーちゃん!?」
聞こえた声に僕は歩みを止める。
振り返ると油目くるみが立っていた。
帰宅途中だったんだろうフリル等がついた派手な私服姿だ。
「その子、誰?」
「……」
面倒な事になったな。
「塾だったんだよね?」
なんというべきか悩んでいると彼女は俯く。
「嘘、ついたんだ」
顔を上げた彼女はギロリと僕、ではなく。
明日夢さんを睨んでいた。
「この、泥棒猫!」
怒りで顔を染めながらずんずんと明日夢さんに駆け寄って彼女は手を振り上げる。
「!!」
油目が何をしようとしたのかわかった僕は駆け寄り、手を掴む。
「何を、やっているんだ」
僕の声は震えていた。
「ジョー、ちゃん?顔、怖いよ?」
怒りで油目を掴む手に力がこもる。
「何を、しようとしたんだ?」
「痛い、痛い!」
「彼女がお前に何かをした訳じゃないだろ!」
「雲川君!落ち着いて、ボクは大丈夫だから!」
明日夢さんが自由な方の僕の手を掴む。
今にも泣きそうな顔をしている彼女に気付いて、僕は油目を掴んでいる手を離す。
「ジョー君!その女を庇うの!?」
「明日夢さんは悪くない。なんで彼女を一方的に悪者なんかにするんだ」
「許せない。くるみは怒ったからね!」
叫んだ彼女はそのまま走り去っていく。
「えっと、僕の知り合いがごめん」
僕は呆然としている明日夢さんへ謝罪した。
今回の件で幼馴染という事にひどく嫌悪感を覚えて、知り合いと伝えて謝罪する。
「え?ううん、驚いただけだから大丈夫。えっと、彼女は?」
「幼馴染……僕の両親が彼女を気に入っていてね。それがずるずると続いて今になるんだ」
「そう、なんだ?悪い事しちゃったかな?」
「そんなことないよ!一方的に絡んだあの子が悪い。明日夢さんは被害者だから……それに、怒った僕を止めようとしてくれたでしょ?」
「あ、ほら、なんというか雲川君が別人みたいに怒っていたから止めないと!って思っちゃって」
そこからお互いに謝罪を繰り返していたけれど、最後は笑いながら「喧嘩両成敗みたいな感じにしよう!」という彼女の言葉で終わりとなった。
「じゃあ、またね?」
「あ」
背を向けて歩き出す明日夢さん。
僕は彼女に声をかけようとして止める。
何を言うんだ?
僕は彼女みたいに明日に希望を持っている訳でも、夢すら持っていない。
そんな自分に太陽のような彼女へ何も言うことなんて。
「雲川君!」
「え?」
「また塾で会おうね!メッセージで話しようね!」
――またね!
そういって彼女は去っていく。
「僕も」
彼女みたいに希望や夢を持ったような人間になれるだろうか?