僕と彼の怪異物語零

週末の教室。

明後日になれば明日夢さんと遊園地にお出かけだ。

「ねぇ、ジョー君」

鞄に教材を仕舞って塾に向かおうとすると油目が僕を呼び止めた。

「なに?」
「ねぇねぇ、今度の日曜日暇?暇だよね!?カラオケにいかない?クラスの子と一緒に誘われてね!」

彼女からの提案に僕は動揺を必死に隠す。
何故、こんなタイミングで誘ってくるのか。
明日夢さんと話す予定で一杯だった頭は冷水をかけられたように真っ白になる。

「ね?」
「悪いけど、その日は予定があるから」
「むむ、そこはくるみを優先すべきでしょ!」
「塾で試験を受ける予定があるから」

嘘をつくことにした。
塾を理由にすれば彼女は引き下がる。

「えぇ、塾よりもくるみを優先してよ!」

今日は食い下がってくれない。
いつもなら彼女のいう事を聞いてすぐに終わっていたが断ったらこんなに長引くものなのだろうか?
今はイラつきを感じる。

「ね!くるみのおねがぁい!」

両手を合わせて上目遣いで僕を見てくる。
今までなら彼女に従っていた。
従わないといけないという気持ちになっていく。
でも。
脳裏に明日夢さんの姿が過った途端、抵抗したいという気持ちが増す。

「無理、前から決めていた予定だから、今回は友達と楽しんできて」
「え?」
「……もういい?塾にいかないといけないから」

驚いている油目を残して廊下に出る。
後ろで恐ろしい顔で睨んでいる彼女に気付かないまま。






















帰宅した僕はそのまま自室に向かう。
リビングで両親が楽しそうに談笑している声が聞こえた。
うちの両親は働いていない。
前までは働いていたんだけど、宝くじが当たったとかで仕事をやめてしまったのだ。
生活費とかについては、入り浸っている油目くるみの家族から生活費としていくらか貰っているらしい。
彼女の家は裕福だ。
それもあるからか両親は油目を実の娘のように大事にしていた。

「丈二ぃ!帰ってきているなら手伝ってちょうだい!」

部屋で寛いでいると母さんに呼ばれる。
勉強を中断してリビングに向かう。

「帰ってきているのなら手伝いにおりてきなさいよ!使えない子ね」
「わかった」

息子が手伝う事は当たり前のように言ってくる母さん。
元々は一人で家事をしていたというのに、宝くじを手に入れてからは必要最低限をするのみで家事のほとんどを僕にさせている。

「じゃあ、後はよろしく」

残された僕は料理を始める。

「今日はトンカツが食べたいな」

のそのそとやってくるのは父さん。

「今日は生姜焼き」

今日は生姜焼きの準備をしていた僕に言ってくる。

「あぁ!?今日はトンカツの気分なんだよ!」

自分の思った通りにいかないと文句を言ってくる。

「わかった」

生姜焼きは自分の晩御飯にしよう。
冷蔵庫の中を確認する。
トンカツの食材が足りない。

「買ってくる」
「気を付けてね」
「ったく、早くしろよな」

手伝う気もみせない母さん、文句を言う父さんを残して家を出る。
両親が大事にしているのは油目。
彼女を大事にしていて、その中に僕はいない。