あの後の事を語ろうと思う。
語るといっても人伝に聞いたところも多い。
まずは今回の黒幕である幼馴染だった油目くるみについて。
怪異、呪術に手を出していた油目はある施設に入院。
どこに入院したのか新城は話してくれなかった。かなり特殊な場所らしい。
彼女が呪術に手を染めた理由についてだけど、幼い頃に呪術の存在を知って、とある理由により行使したという。


――僕を独り占めしたいという理由。

どうしてそんな理由で呪術に手を出したのかわからない。
新城曰く、呪術に手を出す者の理由は大半が碌でもないものだという。
そして、僕の両親も呪術により精神をおかしくされ、病院へ入院となった。
一人になった僕を父さんの弟である叔父さんが面倒を見てくれるようになる。
叔父さんは前から僕の事を気にかけてくれていて、新城と怪異を専門としている警察の人の口添えもあったお陰かもしれない。
まだ僕の事を大切に思ってくれている人がいることがわかって嬉しい。











学校の事だが、登校した日に問題が発生した。
どうやら油目の呪術というのは僕のクラスに影響を及ぼしていたらしい。
彼女が不在となった事で呪術が暴走して、僕を悪と判断して攻撃する呪いに切り替わっていた。
登校と同時にクラスのイケメン男子達が奇声をあげながら僕に襲い掛かってきた。
突然の事に驚きながらも僕は彼らを撃退。
奇行に走ったクラスメイトを止めようとしてくれた芥川君という人から剣道部へ勧誘されるようになったけれど、それは別の話。
彼らを撃退した事で暴力問題になるかと思ったが、工藤先生が助けてくれた。
今のクラスから特別クラスに移動となる。
そこに新城も在籍しているという。
工藤先生本人が教えてくれたけど、彼が新城の師匠だった。
彼も祓い屋で僕の状況を察してくれたから保健室で休んでいた新城の所へ誘導してくれたらしい。
長い間、祓い屋をやってきた工藤先生からみても僕は相当、酷い状況だったという。



そして、もう一つ。

「ねぇ、新城」
「なんだ?」
「どうして、ここへ?」

事件から数日後、僕は新城と共にある病院へ来ていた。
両親や油目がいる施設とも違う。

「お前に会いたいって、頼まれたからな。ったく、こういうダブルブッキングっていうのは面倒で嫌いだ」
「え?」
「ここだ。さっさと行け」

新城に背中を押されて僕は病室の中に入る。
病室は一人部屋でとても手入れが行き届いていた。
その部屋の中心、一つのベッドがあり、その上、呼吸器を着けた一人の少女がいる。
僕はその子を知っていた。

「明日夢さん……?」
「……やぁ、雲川君」

にこりと微笑む姿は見間違える筈がない。
明日夢彼方さんだ。

「え、どうして」

けれど、僕の知っている彼女より痩せこけて病弱な肌色をしている。

「ちゃんとキミに話しておきたかったんだ」

明日夢彼方さんは生まれた時から難病を抱えて病院で長い時間を過ごしていた。
その事を哀れんだ彼女の両親から新城は依頼を受けて、彼女にある術を教えたという。

――魂移(こんい)の術。


「魂を人形へ移す術、こんいの術だっけ?その術を使えば人間と同じようになれるらしいんだ。それで塾や色々な事を楽しもうってことになって……そうしたらキミと出会えた」

嬉しそうに、本当に嬉しそうに彼女は微笑む。

「ごめんね、人形は怪しまれないように健康体に設定してくれていたから、嘘をついたみたいな形になっちゃったけれど」

「そんなことないよ。姿形よりも、僕はキミ、明日夢彼方という女の子に惹かれたんだ」

僕の言葉に彼女は涙を零しながら感謝の言葉を繰り返す。

しばらく沈黙の時間が続いた。

「ねぇ、キミはボクと出会えて嬉しいと思ってくれた?」

いつも通りの彼女にみえるけれど、その目は不安に揺れているように、思えた。

―― 知らなかった。
太陽の様に明るい彼女にこんな秘密があったなんて。
難病を抱えながらも誰よりも必死に生きている姿に、明るくて眩しい姿に惹かれたんだ。

「勿論、キミと出会えてよかった……きっと、人生で初めて、好きになった女の子だから」
「嬉しいなぁ」

途中で激しくせき込む。
僕は慌てて彼女の背中を撫でる。

「ありがとう、大分、良くなったよ」
「うん」

呼吸を整えながら彼女は僕を見る。

「ねぇ、約束してくれない?」
「約束?」

頷く彼女は僕へ指を伸ばす。
とても細くて触ったら折れてしまいそうな指。

「ボクはきっと長生きできないから、その分も精一杯、生きていることが幸せって思えるくらい……生きて欲しい」
「それは……」

僕にできるだろうか?

「お願いだ。ボクの夢をキミが叶えて欲しんだ」
「明日夢さんの夢?」
「うん……ダメ、かな?」
「ううん、ううん、僕、僕なんかにキミの夢がかなえられるかな?」
「叶えられるよ。だって、今のキミは、僕がみてきた中でとっても生きているって感じがする。お願いだから生きる事をやめないで」

差し出された指に僕は自分の指を絡める。

「ゆびきりげんまん、うそついたら……天国で泣いちゃうからね?」








その翌日、明日夢彼方はこの世から旅立った。