「回収してくるか? ここへ?」

「……頼まれてくれるか。色々口止めしておくのも忘れた」

「いーぜ。ちょっと待ってろ」

身を翻した無炎に心の中でもう一回謝っておいて、家で待っている天音にどう伝えるか考える。

黒藤が帰って来たこと。

「…………」

「今度はなに?」

「……天音になんて伝えるか」

「……そうね。天音なら黒藤を寄せ付けないように塩撒きそうね」

「それほんとにやってたから」

小さい頃、黒藤が御門邸に来て帰ったあと、玄関だけじゃなくて家の周りにも撒いていた。

白桜の部屋には盛り塩をしていた。

「鬼に効くのってなんだっけ? 柊(ひいらぎ)と鰯(いわし)だっけ? ほら、節分でやるじゃない」

「鬼の目を貫く? 天音だったら大鎌(おおがま)で首を刎(は)ね飛ばすぞ」

「ワタナベ姓でも連れて来れば?」

「……渡辺綱(わたなべのつな)殿が現代にいたら、紅緒様と喧嘩してそうだ」

有名な、ワタナベ姓は節分に豆まきをしない、は、源頼光(みなもとのよりみつ)の家臣であり、渡辺姓の祖と言われる渡辺綱(こちらも先祖が嵯峨源氏の源融だから、正式には源綱(みなもとのつな))が、酒呑童子(しゅてんどうじ)や茨木童子(いばらきどうじ)といった鬼を、髭切(ひげきり)――別名・鬼切――で斬ったから、というのがある。

鬼の方がワタナベという名前に恐れをなすらしい。

「つっても、あいつ自身がそれじゃないからな。柊も鰯も塩も効かん」