「なにもなかったら俺たちはいらないよ」

このご時世に、陰陽師なんてものは。

陰陽師が隆盛(りゅうせい)を誇っていたのは平安時代。それこそ、安倍晴明の時代だ。

「そうじゃなくて。黒藤が跡継ぎなるのを蹴ってるの、白桜を嫁にするって言い張ってるからでしょ?」

「―――」

がくん、と膝が折れて、白桜は椅子に座り込んだ。

組んだ手に額を載せる。

「んっとにあのバカは……俺は男だって言ってるのに……」

「白桜が女の子だって知ってるの、ほんと少ないからね。黒藤が男好きって思われるだけならいいけど」

「さらっと言うんじゃない、百合姫」

……白桜が本当は女であるというのは、一族内部でも一部しか知らない。

まあ、女である、といっても、正直ストレートな意味では通しにくい。

白桜が生まれた時の性別は女だった。

けれど、ある理由によって白桜から『女性(にょしょう)』が奪われた。

女でなくなった白桜は、ならば男なのだろうか。

祖父・白里の方針で、誕生のときから内外へは『月御門白桜は長男で跡取り』と知らされた。

そのため、御門内部でも白桜は男だと認知されている。

それを黒藤が『嫁にする』と言ってやがるから、黒藤は男を好きになる奴だと思われている。

さすがに今までは人前でキスしてくるなんてなかったけど、あまりに堂々と言うもんだから、とばっちりで白桜も『まさかご当主も……?』という目で見られている。

ねえよ。

「そもそも。俺は御門の当主であいつは小路の当主になる奴だ。そんな婚姻があってたまるか」