無炎は月御門姓を名乗っているから、影小路姓である黒藤とは……まあ、遠い親戚、程度なら通るかな、と言い訳を探す白桜。

「白桜、黒藤が戻ってくるって知らなかったの?」

百合緋はまだスマホをいじりながら訊いてくる。

携帯通信機器を手に入れたばかりで、以来ハマっている。

きっけは、高校へ入学し必要性を感じたから、ということだ。

白桜は他に通信手段があるから必要ないと言ったが、百合緋に押されて同じものを購入した。

「あいつはいつもいきなり現れる」

「ふーん。あの感じじゃ、襲名したのではないみたいね?」

「黒が継いだって話は聞いてないな」

黒藤は、陰陽道・小路(こうじ)流宗家、影小路本家の唯一の子どもだ。

先代当主であり黒藤の母である紅緒(くれお)は、わけあって十六年前に眠りについた。

黒藤は当時一歳。

さすがに跡目にはなれない。

そのため、逆仁(さかひと)という当主名代だった者が当主に就き、今に至っている。

黒藤の立ち位置は、『正統後継者』。

小路の内部で認められれば、すぐにでも襲名するところだ。

本家が絶対であり、分家は本家に忠誠を誓っている月御門一派と違い、小路流は、影小路本家並びに小路十二家と呼ばれる十二の幹部格の家があり、各家それぞれに当主がある。

黒藤は本家の子供で、現当主の逆仁は、鴇卂逆仁(ときはや さかひと)といい、鴇卂家の当主も兼ねている。

齢八十を迎えるかといったこの頃、後継者問題はいよいよ問題だろう。

だがこの問題児、十三歳の頃には正式な襲名の話が持ちだされたらしいが、一向に首を縦に振らない。

なんか色々理由を連ねているようで……高校二年生になる今に至っても拒み続けている。

一方、白桜と百合緋は一つ年下の高校一年生。

白桜は御門(みかど)流宗家、月御門家の当主を務めている。

先代である祖父・月御門白里(しろさと)がさっさと隠居したいからという理由で、中等部に入るのを機に、十三になる年に襲名した。

「なんかありそうね?」