黒藤は縁に涙雨の食事を頼んで、隠形した無月を伴って庵(いおり)を出る。

過日(かじつ)の冬芽からの依頼は、桃子の昇天で解決となった。

あれから二週間経って、黒藤は二、三回冬芽の様子を見に行ったが、目に見えて落ち込んでいた。

相当惚れ込んでいたみたいだ。

けど黒藤たちから、桃子の家族の話が冬芽にもれることはない。

冬芽の依頼は、『桃子の家族を探してくれ』、ではないからだ。

桃子が生前の総ての記憶を持っていたことも、逢いたいと言っていた対象が弟であったことも、冬芽に報告はされない。

人間が陽、妖異が陰、その境界線上に立つ陰陽師(黒藤たち)は、線引きはしっかり引かないといけない。

実はこの、黒藤たちには基本的なところ、白桜のウィークポイントだったりする。

白桜は根が優しい。

十六歳で御門流当主という重責から、常に厳しい態度とわざと強気でいるけど、本当は泣き虫で猫が大すきな普通の女の子だ。

かわいい。

《黒藤。歩きながらにやけるな。通報されるぞ》

通報……。

……要点しか喋らない無月が珍しく喋ったと思ったら、縁と同じことを言って来た。

……数年ぶりに白に逢えて浮かれているのは否定できないからなあ、と頭の中でぼやく黒藤。

仕事柄、警察内部にも顔見知りはいる。

県警本部長を務める華取在義もその一人だ。

現状黒藤が、華取在義は小路一派の華取家の生き残りだと知っていて使い走りにしている。

さらに在義は神宮流夜を巻き込みがち。

流夜は巻き込まれ事故もいいところな目に散々遭っているようだ。