「なんっなんだあいつは!」

「いやー、全然変わってないだけじゃない。むしろ安心じゃない?」

「どこが安心か! 百合姫はなんでそんなに落ち着いてる!」

憤慨する白桜の隣では、百合緋が平然とスマホをいじっている。

黒藤が白桜にぶっ飛ばされたため、溜飲はさがったらしい。

「だって白桜が黒藤にキスされてるのなんてよくあることだし。初めてじゃないんだから」

「頼むから否定してくれ! 俺、男で通ってるんだから!」

黒藤を沈めてそのまま放置した白桜と百合緋は、中庭の一角の四阿(あずまや)にいた。

ここ斎陵学園(せいりょうがくえん)は、旧い家柄の生徒が多い。

といっても、今は普通の家だけど、血筋的に昔は色々と役職についていた、というような感じだ。

昔から支援的に困っていない学園は広く、校庭はもはや庭園の勢いだ。

隠れて話をするにはいいが、盗み聞きの危険性もまた、ある。

「なんだ、また黒坊(くろぼう)に口づけられたのか?」

そう言って四阿に入って来たのは、白桜と同じ斎陵学園の男子の制服を着た青年。

黒髪黒目で、面差しがどことなく……いや、はっきり言ってものすごく、黒藤と似ている。

そして黒藤のことを『黒坊』と呼んでいる。

「無炎(むえん)……お前、見てただろ」

睨みつけると、無炎はからっと笑った。

「大丈夫だって。天音(あまね)には黙っててやるから」

「言えるわけねーだろ! 黒が瞬殺されるわ!」

白桜が怒鳴ると、無炎は遠い目をした。

「……そういう風に、何気に黒坊かばうからあいつも懲りねえんだよ」

「あ?」

「なんでもない。それよかさ、俺、黒坊とは身内ってことにしといた方がいい?」

「そうしといてくれ……。さすがにそこまでツラが似てて関係ありませんは通りにくい」

白桜はため息交じりに答える。