桃子は、ほうっと息をついた。
「………」
……滅んだには、それなりの理由がある。
司が、神祇神宮を『滅んだ』と判断したのなら、俺たちはそれを貫かねばならない。
それは、今を生きる神宮は――流夜と咲桜は、知らなくていい事実だ。
可能性の話、華取在義は二人の家が同じであることには気づくかもしれない。
いや、これ自体なら流夜も気づくだろう。
流夜は人間として、頭の造りが異様だ。
性能が良すぎる、とでも言うのか。頭のいい奴に加えて、半端ない行動力も伴っている。
そして、あの斎月(いつき)姫の兄だ。
主家の当主である國陽には、恋人で許嫁がいる。
それが倭斗斎月(やまと いつき)。
立場上、と断ってから名乗っているけど、斎月姫にとって流夜は『兄』らしい。
なんで俺が知っているかと言うと、俺は個人的に國陽と接触がある。
國陽の影をやってるヤツとほかの神祇家との調整役も担っているからだ。
……まあ、小路の人間が調整役任されるなんて、正直嫌な目にしか遭ってないけど。
神祇家の御門と小路嫌いは、極めちゃったヤツは徹底しているし。
「……なれるといいですね。親友の守護霊」
黒藤が言うと、桃子は微笑み首をかたむけた。
「はい。そうしたら、また黒藤さんや白桜さんにも逢えますね」
「逢わなくていいですよ。あとは俺たちに関わらず穏やかに過ごしてください」
黒藤や白桜は、生涯、問題ごとの渦中(かちゅう)にいるしかない。
だから、出来るだけ関わらない方がいいタイプだ。
「そんなこと言ってると友達出来ませんよ?」
「一生の友達が三人いるから大丈夫です」
まあ、人間じゃなくて式なんだけど。
黒藤の言葉の意味を読み取ったように、桃子は笑いをかみ殺している。
そして、ここでの時間が終わることを告げるように、点滅する光があふれだした。
「では、桃子さん。大人しくのぼってゆかれませ」
「ええ。また、お逢いしましょうね」
……言っても聞かないタイプか。
反論するのも面倒だったから、黒藤は曖昧に笑みを返した。
そこで意識は途切れた。