あくまで陰陽師一族。……という線引きが、神祇の中には気に喰わない奴が多い。
司家に重宝されている――といえばこちら側には聞こえはいいんだけど、神祇連中からしたら『特別扱いされている』になるようだ。
実際特別扱いされている神宮や古桜、御影は、他の神祇たちに認められて『神祇三家』と呼ばれるまで上り詰めたから、最初から司のすぐ配下に置かれている俺たちはお気に召さないらしい。
司の祖は、神祇の体系を作るより先に、影小路と月御門を直属の配下に置いたと言われている。
それが現当主・司國陽(つかさ くにはる)。中学三年生。
國陽は、簡単に言えば始祖の生まれ変わりだ。
「黒藤さん」
思考に沈んでいた意識が呼び戻される。
顔をあげると、桃子が微笑んでいた。
「どうしました? 新しいこと、思い出しました?」
「いえ、心配事というか……」
「なんです?」
「あの子は……本家からは遠いですが、神宮の一です。そこに、実質最後の神宮を名乗れる咲桜と結婚しては、問題は起こらないでしょうか? その、力的にまずい、とか……」
『最後の神宮』は、娘とするか……。
「そういうことはないと思いますよ。神宮流夜の霊力は一般人程度で、質もそれと変わりありません。神祇として目覚めることはない。咲桜の方は貴女の娘であるからある程度の能力(ちから)はあるでしょうが、何の鍛錬もなく操れたら神祇家がいる意味がない。咲桜に力の開眼はない。――いや、させない。神宮は滅んだ一族。司もそう判断している。それに則(のっと)って、俺たちが貴女以降に神宮の能力を発現させない」
――簡単な言い方をすれば、もし咲桜や流夜、それ以降の神宮に能力の発現が認められそうな場合は、俺たちが力を封じる。
力を秘めただけの存在と、力を持ってそれを扱えるように訓練している者とでは、雲泥の差がある。
「……安心、しました」