「ねえ、黒藤さん」
「なんです?」
「私、霊体、なんですよね?」
「そうですね。昇天したから、現世じゃないどこかへ行くことになると思いますよ」
「霊体って……守護霊にはなれるんですか?」
「いや、霊だから守護霊なんでしょうが。まあ、すぐには無理かもしれませんが……あなたの場合、神祇三家が一の本家筋ながら記憶喪失でその力を使っていませんでしたから、普通の神祇よりも持っている霊力が大きいでしょう。向こうでどう判断されるか知りませんが、なれる可能性はあると思いますよ。誰かの守護霊、なりたいんですか? 旦那さん? 娘さん?」
「夜々ちゃんです」
「……ややちゃん?」
誰だ。黒藤の情報網にない名前だ。
「華取のお隣の家の、朝間夜々子(あさま ややこ)ちゃんです。在義さんの幼馴染で、在義さんのことが大すき同士の親友です」
………え。在義の幼馴染で……大すき同士?
「……修羅場にはならなかったんですか?」
「なりかけました。でも夜々ちゃん、すぐに私のことゆるしちゃったんですよ」
苦笑する桃子。
……女の友情ってわかんねえ。
白桜と百合緋の友情も、黒藤にはいまいちわからないくらいだ。
「それで――友達に? 家族じゃなくて、その方の守護霊になりたいんですか?」
てっきり、在義か咲桜、あるいは流夜の名前が出てくるかと思った。
ぶっ飛んだ方向から投げ返されてきたよ。
「ええ。咲桜にはあの子がいるから大丈夫だし、在義さんには夜々ちゃんがいるから大丈夫です。桃子(わたし)は家族のために生きて死にました。だからあと、残された時間は友達のために使いたいんです。夜々ちゃんの傍にいれば在義さんのこともずっと見ていられますし、咲桜のことも見守れます。私的には一石三鳥です」
「……あなたは……と言うか、神祇は面倒くさい考え方しますね」
実際、何羽の鳥がいるかわからないハナシだな。
「元締めは司ですよ?」
「司が一番面倒ですよ。直属の主家に言うのもなんですけど。……希望が叶うと、いいですね」
「はい」
――司を主家としていながら、影小路と月御門は、神祇ではない。