陰陽師が陰と陽の中立を保つ存在なら、神祇は高天原(たかまがはら)と呼ばれる世界と、俺たちのいる現世と、黄泉(よみ)と呼ばれる死者の世界が、お互い干渉し過ぎないようにバランスを保つ役目を負っている。

司家を総主家に、その下に多くの神祇家が存在する。

なかでも神宮と古桜(こざくら)、御影(みかげ)は『神祇三家』と呼ばれ、司家に次ぐ高位の格として扱われている。

……神宮は滅びた。

桃子は、最後の神宮だ。

「貴女は、少しは鍛錬を?」

「一応程度ですよ。これは、在義さんは知りません。在義さんと出逢ったときのわたくしはこれを忘れていましたから」

これ、と桃子は球体を浮かべた右手を見る。

神祇の家系としての能力(ちから)。

「では、娘さんに発現することはなさそうですね」

「そう思います。私の本当の父も、私ほどのことは出来ないほどに代々力は弱まっていましたから。今でも始祖と同程度の力があるのは、司くらいのものでしょう」

「でしょうねえ。今代が始祖ですからねえ」

黒藤の間延びした答えに、桃子はくすりと笑った。

「彼女、最初は私が神祇だと気づいていませんでしたね。貴方が教えたんですか?」

「ええ。華取はうちの流派ですから、諸々白より先に俺が気付いて当然です」

「……よいのですか?」

「いいんですよ、白はあれで。――御門は光の陰陽師だ。闇は小路(うち)が引き受ける」

「あなたは――」

「貴女が神祇であるというなら、勝手に詮索したお詫びに一つお教えしましょうか?」

「? 話を逸らすのうまいですね」

「よく言われます。水鏡(みかがみ)って言うんですけど、これから貴女が向かう先でも、貴女の大事な人たちの姿を見ることが出来ますよ。……会得出来るかどうかは、貴女次第ですが」

まあ、神祇である桃子なら会得するだろうなあ、と思いつつ、それを伝えた。