「……俺の方に来ましたか」
瞼をあげると、白に染まった世界に一人の黒髪の女性がたたずんでいた。
ここは俺の夢世界――桃子をおくった日の夜、黒藤の夢に桃子は出て来た。
「貴方だけが総てを知っているように思いまして。……彼女は気づいていませんね?」
「貴女の方は勘付いていましたか」
白桜が本当は女性であると、桃子は知っていたか。
「黒藤さんが、女性扱いしかしていませんでしたから」
「……俺、蹴られて殴られてしかいませんが」
まあ黒藤の身体が常人よりは丈夫なこともあるが、白桜は手加減ない。
「……生前――『華取桃子』になる前の記憶も還(かえ)ってきたようですね」
桃子は、微笑み首をかたむけた。
「ええ。最初から申し上げているように、わたくしは華取桃子です」
「憶えているんでしょう? 彼女は真実貴女の娘であり――彼は貴女の弟であると」
桃子は表情を変えない。
それだけが反応だった。俺は続ける。
「その、理由も。察していないはずがない」
「……あなたはタチが悪いですね」
「よく言われます」
「神宮は――」
桃子は、軽く右手を挙げ、何かを包むように手を開いた。
「司に次ぐ神祇三家のひとつです――」
桃子の掌に、光の球が浮かぶ。
神祇とは、簡単に言えばバランサーだ。