「大事な二人を見ることが出来ました。これで……わたしには十分過ぎるほどです。あとは……生きている方々にお任せします」
「……そうか。ならば、このまま貴女をおくろう」
だんだん光に包まれる場所が増えて行く。
黒藤に視線を送ると、肯き返された。
黒藤が先に口を開く。
「華取桃子――いや、神宮美流子。魂の列(れつ)に則(のっと)り、貴女がゆくべき世界へ」
「静かに、その魂、穏やかに在るように――」
一気に、大きな光に桃子が包まれる。
光の中で、桃子はまた笑顔を見せた。
そして、音にはならなかったがそっと口を動かし、――すっと天に届くように伸びた光の中に消えた。
「依頼完了、だな」
光の消えた方を見上げて、黒藤が呟いた。
「ああ……。だが、あちらは問題だらけだ。心配過ぎる」
墓石の並んだ階段を、手を繋いで降りてくる流夜と咲桜。
白桜たちは知ってしまったが、流夜や咲桜、その周りの人間が知らない事実がたくさんある。
白桜たちから干渉することは出来ないが、桃子をおくった身としては気になってしまう。
「ま、必要があったら俺らに手を貸してくれって言うだろ。在義は華取がどんな家かも知っているし、影小路のことの知っているし」
「……そのときは力を貸すしかないな」
微笑みあう恋人たち。
だが、隠されている関係が知れたときは……。
「白。お前は優しいから助けたいものがたくさんあるだろうけど、境界線には気をつけろよ?」
……黒藤の忠告が、やたら重かった。
わかってる、と返すことが出来なかった。
「ともかく依頼は完了だ。ことの経緯の説明に、もう一階冬芽んとこ行かなくちゃな」
「そうだな。今夜にでも」
……そう、答えることは出来た。
鬼の頭領からの依頼は、これにて終了だ。
冬芽。鬼の頭領。人を愛した、鬼。
そして白桜の隣にいるのは、人と鬼の間に生まれた子ども。
俺も……人のことは言えないが。