相変わらず桃子は喋らない。

天音から、もう家人も百合緋も眠りについていると伝えられているから、家の誰にも逢わせない方がいいだろう。

明日も早い時間に黒藤にきてもらうことにしてある。

「不安か? 桃子」

白桜の私室に連れてくると、桃子は落ち着きなさそうにしている。

まあ、いきなりくつろげという方が無理だろう。

「大丈夫だ。俺たちは約束を違(たが)えない。桃子が逢いたがってる者たちに必ず逢わせる。――そのあとを決めるのは貴女自身であることは、忘れないでおいてほしい」

桃子は軽く顎を引いたが、肯きはしなかった。

神祇の霊体を、修行中の家人や百合緋に接触させたくないので、桃子を私室に置いて、白桜は文机に向かって夜通し調べ物をすることにした。

今日も無炎は縁側に片足を伸ばして座って、外を眺めている。

そのうち桃子は、ふっと糸が切れたように壁にもたれて眠っていた。





神宮流夜と華取咲桜がやってきたのは、寺だった。

桃子はここに何があるのかわかっているらしく、挙動不審だ。

流夜と咲桜には万が一でも桃子の姿が見えないように、白桜たち三人を囲むように結界を張っている。

一つの墓地の前に、流夜と咲桜は並んだ。

白桜たちにも二人の声が聞こえるように、印を結んだ。

――現状二人は、桃子が美流子であるとは知らないようだと無炎が伝えて来た。

つまり本人たちは、互いが縁戚であるとも知らないのだろう。

「はじめまして、桃子さん。在義さんには認めてもらっていますが、咲桜さんと結婚前提で付き合っています」

へー。結構真面目だな。隣の桃子を見遣ると、ただ真っ直ぐに二人の方を見ている。

流夜の隣の咲桜は俯き気味だ。

「咲桜のこと愛してるので、心配なさらずに俺にください」

「! え、どういう言い方⁉ それって一般的なの⁉」

「咲桜としか考えたことないから一般的とか知らないけど、咲桜の母君だからストレートに言わないと曲解上等だろうなあ、と」