さすがに驚いたのか、桃子は目を見開いた。
黒藤は部屋の外で待機しているが、口を出す気はないようだ。
「……と、ずっと言いたかったんだ」
般若の面の下で、冬芽の声は揺れる。
「だが、御門の主と小路の若君のおかげで、見つかりそうなんだな? 桃子の探し物」
桃子は一度唇を噛んで、黙ったまま肯いた。
「御門の主」
冬芽が、般若の面のまま白桜の方を見て来た。
「どうか、よろしく頼み申し上げる。桃子がこれ以上、この世界で迷わないように導いてやってほしい」
「……ああ。約束しよう」
妖異と簡単に約束なんてかわすものではない。
だが、白桜は冬芽のこの願いは叶えたかった。
だから、応じた。
そのまま、白桜は桃子を鬼の屋敷から連れ出した。
桃子から望んでここからいなくなることを、鬼の一族がどう考えるかは千差万別だ。
桃子を害しようとするものがいないとは言い切れない。
霊体の桃子を連れて、御門別邸まで連れて来た。
「白……」
「一日くらい預かれる。一応、護りもこちらの方が堅固(けんご)だろう」
桃子を別邸に入れることを渋る黒藤を説得して、一緒に送ってくれたことには礼を言った。
あまり強くない妖異――霊体を、陰陽師の結界の中に入れるのは、消滅の危険性がある。
だが、桃子は神宮の娘であるために霊力は強い。
くわえて、庵で暮らしている黒のところへ押し付けるのも気が引けた。
「明日、また来てくれ」
「うん。必ず来るから、それまでに一人で行動を起こすなよ?」
なんだか年上ぶったことを言う黒藤――年上だけど――がおかしくて、白桜は思わず笑ってしまった。
「また明日。よろしくな」
黒藤を見送って、桃子を別邸に入れる。