「厄介なのがもう一個、あってな」
「俺が知って問題ない話なのか?」
「まあな。娘の咲桜には彼氏――父である在義公認の恋人がいる。名前を、神宮流夜(じんぐう りゅうや)。美流子の弟だ」
「…………」
……………。
「お前、どこの小説世界の話をしているんだ? そんなむしろ都合いい展開あるかよ」
「まあ、これもかなり複雑な経緯をたどってるんだけど、桃子の娘の咲桜の彼氏は、桃子の弟――戸籍上の、弟だ」
「戸籍上?」
「言ったろ? 神宮は滅んだ一族。美流子は本家筋の最後の神宮。つまり、養子出されていたってことになる。神宮流夜のいる神宮は、神祇家の血筋ではあるけど、遠縁もいいところだってことだな」
「………ちょっと待て黒」
「おう?」
「頭の中を整理する。五秒くれ」
「いいぞ」
いち、に、さん、し、ご。
「よし、把握した」
「早いな」
「今回は早く動いた方がいい。無炎、遣(つか)いを一つ頼まれてくれ」
「おー、なんだ?」
「華取咲桜と神宮流夜の様子を探ってくれ」
「承知した」
「黒、今夜もう一度冬芽に逢いに行く。お前も来てくれ」
「構わないけど……桃子を屋敷から連れ出すのか?」
「ああ。早いうちの方が、冬芽も未練を切りやすいだろう」