「少し、厄介な家でね。白、今回の件は急を要する。焦れた鬼どもが桃子の抹殺もしかねないだろう。俺から訊くことは白の矜持(きょうじ)にふれるだろうから最初に訊いておくけど――俺から話すか?」
「話してくれ。知っていることは総て。被害を出す余裕なんざ誰にもやらん」
白桜の返事に満足したように、黒藤はまた椅子に座りなおした。
「華取は絶えたと言っても、本家壊滅という状態で、華取家の血を引いている人間はまだ存在している。現状で華取家当主という地位を与えてしかるべき人間も一人いる。華取在義(かとり ありよし)。現在県警本部長だ。本家の末子ながら傍系の養子出されたために難を逃れている。その華取在義が、桃子の夫だ」
「……では、華取桃子は嫁いでからの姓か」
「ああ。そして、在義との間の子ではないが、娘が一人いる。華取咲桜(かとり さお)。白と同じ高一だ」
「娘……桃子が逢いたがっているのは、夫か娘の可能性が高い、が……」
「だろうが、厄介なのは桃子の出自だ」
「なんだ?」
「神宮美流子(じんぐう みるこ)――桃子が生まれた時の名前だ」
「神宮で厄介って――まさか、神祇(じんぎ)神宮の娘なのか!?」
思わず大きな声を出してしまった。
だが、それもやむを得ない話が転がり出て来た。
神祇神宮――数ある神祇家の中でも、総主家である司(つかさ)家に次ぐ高位の一族。
……今は滅びた一族。
「どういう流れで壊滅した本家筋の娘である美流子が生き延びていたのかはわからないが、間違いなく最後の神宮と言って過言ない」
「神祇の娘なら、霊力は高い。冬芽の屋敷から連れ出しても他の霊に影響されることもないはずだ。……お前はそこまで知っていながら、何故渋っている? そもそも、俺に依頼を廻してきた?」
白桜が眉を寄せて問うと、黒藤は困った顔で「うん」と答えた。