「そうか? 華取も桃子も、そう珍しい名前ではないだろう?」

「うーんと、確か……千葉県にある香取神宮とかの『香取』なら結構見るけど、この『華』の『華取』って珍しくない?」

はなの華取?

言われて、白桜も視線を帳面に落とす。

全然珍しいなどと思っていなかったが、確かに苗字としては聞いたことは――……ある、な。どこだ? 百合緋のように、この名前に違和感を覚えなかった理由があるはずだ。

立ち上がると、百合緋が顔をあげてきた。

「白桜?」

「書庫を漁ってくる。明日も学校だから、百合姫はもう寝てな」

「書庫? 探しもの?」

「ああ。ちょっと、家系図を、な」





翌日の放課後、白桜は昨日の四阿(あずまや)に黒藤を呼び出した。

「わーい、白からデートのお誘
「まずは腹に一発入れていいか?」

「……蹴る前に訊いてください……」

白桜の膝が黒藤の腹に食い込んだ。

おさえてうめく黒藤は、そのまま椅子に座り込んだ。

「華取――『華』の字を冠する華取は、影小路一派の一族だな?」

白桜が問うと、黒藤はゆっくり顔をあげた。

昨日――もう今日という時間だったが、書庫で見つけた影小路一門の図には、しっかりその名が記載されていた。

華取。

黒藤は真顔になる。

「ああ。影小路一門、華取一族。今は絶えた家系だ」

「……知ってて黙っていたな?」

低く問うと、黒藤を立ちあがった。