華取桃子は誰かに逢いたいようだ。
地縛霊という状態でもないから、心残りを叶えれば、昇華されるだろう。
桃子の記憶に潜り込むより、その『逢いたい』対象を見つけられたらいいんだけど、何しろ桃子の情報が少ない。
よくある名前だし、もし何十年も前の霊体だとしたら、『逢いたい』人が生きているかもわからない。
そのとき廊下から、「白桜、入っていい?」と声がかけられた。
百合緋だ。白桜が応じると、ひょこりと顔をのぞかせた。
「遅い時間だから、はちみつホットミルク作ったの。少しは休憩してね」
「ああ……ありがとう」
笑顔とともに言ってくれる百合緋。
気を張っていた分、白桜はその笑顔でふっと肩から力が抜けた。
「百合緋様がお作りなったのですよ、白桜様」
百合緋につけている天音が後ろから姿を見せて、柔らかい表情で説明してくれた。
「すまない。遅くまで起こしてしまって」
「ううん。私はスマホいじってたから」
百合緋が文机にカップを置いてくれる。
「本当すきなんだな。だが、ほどほどにしろよ? 睡眠に影響出ると言うし、スマホ老眼というのも聞くぞ?」
「そうね……時間決めるとかしたほうがいいかな」
百合緋は使いすぎに自覚があるのか、そんなことを言った。
「白桜、これなんて読むの? 名前?」
「ん? ああ、今の依頼者みたいなもんだ」
百合緋が、開いていた帳面(ちょうめん)に書かれた名前を指さした。
桃子からこれといった情報は得られなくて、冬芽から聞いた話を箇条書きしているものだ。
「かとり? へー、珍しいわね」
名前の読み方を教えると、百合緋からそんな反応があった。
「珍しい?」