総領屋敷の玄関に集まっていた鬼たちに、冬芽はそう忠告した。

すると、一人の少女――年齢は白桜たちより遙かに上だろうが、見た目は小学生か中学生といったところだ――が出て来て、目を潤ませた。

今まで見た中に、般若の面をしているのは冬芽しかいない。

少女は、長い黒髪の背の真ん中あたりで結わえていて、前髪と頬にかかる髪は切り揃えられている。

雪のように白い肌。人間の姿をとっていられるのならば、ある程度の妖力はあるのだろう。

「小路様、御門様、どうぞ、兄様をお助けください」

兄様……冬芽の妹か、血縁か。

「……桃子に逢ってみねばなんとも言えなくてすまないが、必ずしも貴殿らの望む解決を、とは約せないことは承知しておいてほしい。人の世と、鬼の世と、霊の世は必ずしも重ならない」

白桜の冷たい反応に、少女は少し肩を落とした。

だが、鬼を相手に『絶対に助ける』と約束することは避けた方がいいことだ。

妖異の中でも高位の存在である鬼。

もし違(たが)えられたと知られれば、報復を受ける可能性は高く、またその力も甘く見ると危険だからだ。

「出来る限りのことはさせてもらう。そのために、貴殿らの協力は不可欠だということも、承知していてほしい」

白桜の言葉に、少女は唇を噛んで肯いた。

どうやら、冬芽と一族の間には溝があるようだ。

冬芽は桃子を助けたい。

一族は冬芽を悩みから助けたい。

……ちとまずいな。白桜は脳内でうなった。

冬芽の悩みを解決する方法には、最悪のものも考えられるからだ。

そうなる前に、早々に解決すべき依頼か。

黒藤は、白桜に依頼を寄越して来た。

ならばこの件の主導権は白桜にある。

今のところ考えるのは、まずは桃子に接触する。

そしてどの程度の自我があるか、会話が出来るかの確認だ。

あまりに自我が薄いと、自分を見失って、いわゆる悪霊に落ちる可能性がある。

会話が出来るかどうかは、どの程度今の――霊体の――自分を操れているかの確認のためだ。

それから――記憶回顧の術を使うことが可能かどうか、判断する。