「……そう出来たら、とは思うが……」
一度、言葉を濁す冬芽。
……心底では、そう望んでいるということか。
「だが、彼女は霊体だ。いずれはここではないどこかへ行かなければならない。それに、『あの子に逢いたい』という言葉を発しているなら、人間であったときの自我もあるんだろう。俺と一緒に生きるために鬼になってくれ、なんて言えない」
「………」
……黒藤と意気投合するだけはあるか、と判断する白桜。
冬芽は、性根の優しい奴のようだ。
「まあ、早く妻を娶(めと)れっていう一族からの圧力はどうにかしたいけどな」
……早く当主を継げといわれているヤツが、確かいたなあ。少しだけ斜め上を睥睨する。
「なら、桃子の心残りの解決が依頼ということでいいのか? その先の決定権は、桃子にあるという前提で」
冬芽は、少し黙った。
やや置いてから、「そうだ」と返事があった。
……未練は断ち切れていないようだな。
冬芽率いる鬼一派の屋敷にやってきた。
いくつもの屋敷が立ち並んでいて、周りを囲む長い塀がある。
冬芽一派は総てがここに集まっているようだ。
「総領屋敷に、桃子をかくまっている。一応俺の客人扱いになってはいるんだ」
冬芽に案内されて、最奥に構えた一番大きな屋敷に向かう。
白桜と黒藤が同時に振り返ると、そこに無炎と無月が顕現した。
二人の視線は、姿を現せという合図だ。
冬芽は屋敷に入る前に一度足を停め、二人の式を振り返った。
般若の面のまま、頭を下げた。
……どうあっても桃子を助けたい。そう言っているようだった。
「小路の若君と御門の主を連れて来た。皆、粗相(そそう)のないように」