かとりももこ……。
「生前の記憶はあるということか?」
「ああ。……だが、小路の若君には話したんだが、心残りがあるらしく、どこにもいけないでいるんだ」
「……浮遊霊になっていると?」
黒藤を見上げると、軽く肯いた。
「冬芽に頼まれてから面会したんだけど、泣いてばかりでなあ……まともに話が出来ないんだ。だから、漂っている理由もわからない。冬芽が桃子を見つけたとき、」
ふと、黒藤が冬芽に目配せをした。
「『あの子に逢いたい』……そう言ったんだ。それきり一度気を失ってしまってな。起きてからは泣いてばかりだ。問いかければ、ほんのたまにだけど、断片的な言葉は話す。名前もそんな感じで聞いたんだ。どうしたもんかと思ったんだが、他の霊体に見つかって揉めても嫌だったから、ここへ連れて来た。ここなら俺がゆるした者以外は入らないからな」
そう言って、名前の漢字を教えてくれた。
華取桃子。
浮遊霊。
あの子に逢いたい。
泣いてばかりで、断片的にしか話せない……。
「こういうの、俺より白のが得意だろ? 対象に沿うって言うかさ。白の《記憶回顧の術》なら、桃子の何かがわかるかもしれないと思って」
「まあ……俺の専門分野ではあるかもしれないな」
当人に逢ってみないとなんとも言えないが。
《記憶回顧》は、対象の記憶に這入(はい)りこんで、本人が忘れてしまっている記憶まで視ることが可能な術だ。
白桜の得意分野、と言える。
「それで、冬芽は桃子に何を望んでいるんだ? 妻にしようとかそういう話か?」
白桜の問いかけに、冬芽はゆっくりと足を停めた。