「冬芽――と呼んでいいのか?」
白桜が問うと、般若の面は肯いた。
「構わない。俺たちから貴殿(きでん)らに危害を加えない約定(やくじょう)の代わりだと思ってもらえれば。俺は御門の主と呼ばせてもらうが、よろしいか?」
「……ああ」
自分は名前で呼ばれて、白桜や黒藤のことは地位で呼ぶ。
対等ではなく、自分たちを下に置いたやり方だ。
……どうしても解決したい問題でも抱えているようだ。
「それで、黒への依頼に他流派の俺が関わっていいのか?
「俺たちに人間の流派は関係ない。俺が頼った小路の若君が頼ったのが、御門の主だったというだけだ」
「……で? 依頼内容は?」
からっとした対応の冬芽。
話しやすいと言えば話しやすいが、気を抜いて言質(げんち)をとられないようにせねば。
冬芽は、先に姿を見せていた鬼たちに「先に戻っていてくれ。出迎えの準備を」と声をかけて下がらせた。
鬼は総ていなくなり、冬芽だけが残った。
「実は、ある女性に惚れたんだ」
「色恋話はこの万年花畑頭としてくれ」
と、白桜は黒藤を指さした。
黒藤は「え?」と間の抜けた笑顔で見て来る。
「いや、せめて最後まで聞いてほしいんだが……」
「おう」
戸惑う冬芽に応えると、せきばらいしてから話し出した。
「その方は、いわゆる幽霊なんだ」
「………霊体に惚れたのか?」
「簡単にいうとそうだ。詳しい説明は道中でも構わないか? 屋敷に、彼女がいるんだ」
「幽霊……」
白桜が呟くと、冬芽は肯いた。
「生前の名前はわかっている。華取桃子(かとり ももこ)というらしい」