……お迎え、ねえ。

影が、順に出てくる。その数は十から二十。

姿は和服を着たヒトの形をしている。

だがまあ見事に全員、帯刀(たいとう)だ。

戦う気を捨ててもいないようだな。

隠形している無炎の気配が鋭くなったのを、白桜は少しだけ手を振って制止する。

俺たちはあくまで依頼主に逢いに来ただけ――

「あ~ごめんごめん、ちょっと遅れたー?」

………? 呆気に取られるほど軽い口調の声が聞こえて、無炎と白桜、一瞬固まった。

今の軽いの、黒……じゃないよな?

「おー、冬芽(とうが)―」

……とうが?

黒が上の方――木の上の方を向いて、そんな風に言った。

誰だ、と白桜が黒藤に問いただそうとしたとき、すたんと軽い音を立てて、白桜たちの前に一つの影が降りて来た。

「お初にお目にかかる。御門の主(みかどのあるじ)」

そう言ったのは、和服姿に般若(はんにゃ)の面をした――青年、だった。

闇の中だから、衣の色は昏い色にしか見えない。

『御門の主』と呼ばれて、右手に組んでいた印は解かないままにする。

それを察してか、鬼の面の男は右手を胸の辺りで振った。

「そう警戒されるな。小路の若君に無理を言ってしまったこと、すまなかった。俺は冬芽。一応、ここの総領(そうりょう)だ」

声は、かなり若く聞こえる。

人間とは寿命の違うのが妖異だから、青年に見える鬼の年齢は、俺たちにとっての寿命をとうにこえていることが普通だ。
 
……けど、妖異が簡単に名前を明かすって、黒藤はこいつ――冬芽とどんだけ信頼関係築いているんだ?

名前は魂の縛りだ。

術師は、名前一つで相手を殺すことも出来る。

まあ、現代にいたるまでに、親がつけた世間を生きるための名前と、生まれながらにその魂が持っている真の名前――真名(まな)とが分かれて存在しているのだが。