あくまで、黒藤が正統なる後継者、今の当主は紅緒から黒藤への間を保つために置かれたようなものだったから、当事者である黒藤も関わらざるを得なかった。
黒藤が当主になったとは聞いていないから、また就任の話は蹴っ飛ばしてきたんだろう。
でも、黒藤以上の陰陽師が小路流に現れない限り、拒み続けるのも限界があるだろう。
「いや、天龍にいたって言っても俺、結構国内各地を回ってて、その中で逢ったんだ」
「鬼が陰陽師を頼る、ねえ……時代の流れで片付けていいのか?」
「うーん……そいつら、どこの配下でもないから、困り切って頼って来た感じかなあ。あ、白。この神社」
と、黒藤が示したのは街中にある小さな神社だった。
……こんなところに、鬼が?
「今の時間なら繋がってるはずだ」
黒藤が先を歩くので、白桜は黙ってついていく。
今は隠形(おんぎょう・普通の人には視えないように姿を隠すこと)している無炎と無月が、気配を鋭くさせるのがわかった。
「ここ」
と、小さな蔵のような堂の前に立った。
「こっちと向こう、両方から道を作ってるんだ。向こうが、俺の家の近くだとここじゃないと無理だって言うから。ここから依頼主がいる山ん中に通じてるから。はい」
………何故か黒藤が手を差し出して来た。
「この手はなんだ?」
「繋いで。無理に道を繋いでるから、はぐれたら大変」
「………」
迷子防止? まあ、術式をかけているのが黒藤と相手双方からのようだから、黒藤に触れていれば術式に呑まれることもないだろう。
白桜は手を取った。
《……黒坊、したたか》
無炎がぽつりと言った。
……どういう意味だ?