小野キリエと零のミニアルバム、『eau du ciel(オウ・デ・スィエル)』は発売当初は小野キリエの引退発表とも重なってぐんと注目があがったが、しばらくするとなだらかに下降して、見込んだ収益の及第点で落ち着いた。
 零と美也は結婚し、『ペンギン』でささやかなパーティを開いた。
 結婚式やらハネムーンやらは当分先になりそうだが、零と美也はできればアメリカに行ってみようと考えている。
 もちろん、キリエがいるであろう牧場に。
 ただ、彼女が広いアメリカのどこにいるのかわからなかったが、半年後に藤谷経由で届いたハガキでわかった。
 ノース・キャロライナ州だ。
『零さん、美也さん、ご結婚おめでとう。遊びに来てね』
 丸まっちい字が写真に添えられていた。
 馬の乗ったキリエの顔は見たことがないほどの満面の笑みで、いつもまっすぐに垂らしていた長い黒髪は後頭部でひとつにまとめていた。
 横に立つカウボーイハットの男性はパッと見て賀州だとわかった。
 撮影をしたのは誰だろう。もしかしたら彼女の父親かもしれない。
「賀州さん、カウボーイハットが馴染み過ぎ」
 美也が笑った。
「確かに」
 藤谷と零も思わず笑ったのだった。

END