キリエはいろいろと検査を受けたが、特に体に異常は見られなかった。
ただ、過労の状態らしく、数日入院したあとに普通の生活に戻るらしかった。
過労なら休ませたほうがいいだろうと入院中の見舞いは遠慮し、退院後に一度美也も一緒に快気祝いを兼ねて挨拶に行くかと藤谷と話をしていたとき、事務所に賀州が突然訪れた。
「急にすみません。時間は大丈夫でしょうか」
「いえ、このあとは昼食食べに出ようかと思っていたところなので……。今後のスケジュールの件ですか?」
藤谷の言葉に賀州は「いえ」と短く答えた。
「実は…… 退院後、小野はアメリカに行きます。日本にはもう戻らないと思いますので、本人を入れたMVやジャケットは製作が無理となりましたのでそのお詫びを」
「え?」
藤谷と零は思わず顔を見合わせた。
「どういうことですか?」
藤谷が早速ハンカチを取り出した。
「まあ…… それならそれで、いろいろ方針は立てられるとは思いますけれど…… もう少し早く教えてもらえたら……」
「ごもっともです。申し訳ありません。製作費などは当初の契約通りに負担をさせていただきますので」
「あの…… なんで急にアメリカに行くことになったんですか?」
零が尋ねると賀州は零に目を向けた。
「彼女の父親がおりますので」
「父親……」
零と藤谷が同時に声を漏らした。
「彼女の父親はアメリカの音楽学校で講師をしていまして、かなり前から小野に来るよう促してはいたのです。しかし、小野がなかなか応じませんでした。今回のミニアルバムが終了してようやく決心がついたようです。急なことですので、電話などでお伝えするのもと思い、こちらに寄らせていただきました」
「そんなすぐに発つんですか?」
零が尋ねると賀州うなずいた。
「はい。明日には」
明日……
あまりにも急なことでふたりとも何も言えない。
賀州が深々と頭を下げて退席したあとも動けずにいたが、零がふいに立ち上がった。
「ごめん、すぐ戻る」
藤谷にそう言い、零は賀州のあとを追った。
ビルを出て、ようやく彼の後ろ姿を見つけた。賀州の背が周りに比べてとりわけ高いのはありがたかった。
「賀州さん!」
零の声に賀州が振り返った。
「すみません、ひとつ教えてください。彼女はなんでおれを選んだんですか?」
零は自分よりずっと高いところにある賀州の顔を見た。
「小野さんはおれと『歌わないといけない』ってずっと言ってたんです。歌ってからは『勝った』とか…… よくわからないんです。倒れる前は……『出てった』と……」
賀州はしばらく零の顔を見つめたのち口を開いた。
ただ、過労の状態らしく、数日入院したあとに普通の生活に戻るらしかった。
過労なら休ませたほうがいいだろうと入院中の見舞いは遠慮し、退院後に一度美也も一緒に快気祝いを兼ねて挨拶に行くかと藤谷と話をしていたとき、事務所に賀州が突然訪れた。
「急にすみません。時間は大丈夫でしょうか」
「いえ、このあとは昼食食べに出ようかと思っていたところなので……。今後のスケジュールの件ですか?」
藤谷の言葉に賀州は「いえ」と短く答えた。
「実は…… 退院後、小野はアメリカに行きます。日本にはもう戻らないと思いますので、本人を入れたMVやジャケットは製作が無理となりましたのでそのお詫びを」
「え?」
藤谷と零は思わず顔を見合わせた。
「どういうことですか?」
藤谷が早速ハンカチを取り出した。
「まあ…… それならそれで、いろいろ方針は立てられるとは思いますけれど…… もう少し早く教えてもらえたら……」
「ごもっともです。申し訳ありません。製作費などは当初の契約通りに負担をさせていただきますので」
「あの…… なんで急にアメリカに行くことになったんですか?」
零が尋ねると賀州は零に目を向けた。
「彼女の父親がおりますので」
「父親……」
零と藤谷が同時に声を漏らした。
「彼女の父親はアメリカの音楽学校で講師をしていまして、かなり前から小野に来るよう促してはいたのです。しかし、小野がなかなか応じませんでした。今回のミニアルバムが終了してようやく決心がついたようです。急なことですので、電話などでお伝えするのもと思い、こちらに寄らせていただきました」
「そんなすぐに発つんですか?」
零が尋ねると賀州うなずいた。
「はい。明日には」
明日……
あまりにも急なことでふたりとも何も言えない。
賀州が深々と頭を下げて退席したあとも動けずにいたが、零がふいに立ち上がった。
「ごめん、すぐ戻る」
藤谷にそう言い、零は賀州のあとを追った。
ビルを出て、ようやく彼の後ろ姿を見つけた。賀州の背が周りに比べてとりわけ高いのはありがたかった。
「賀州さん!」
零の声に賀州が振り返った。
「すみません、ひとつ教えてください。彼女はなんでおれを選んだんですか?」
零は自分よりずっと高いところにある賀州の顔を見た。
「小野さんはおれと『歌わないといけない』ってずっと言ってたんです。歌ってからは『勝った』とか…… よくわからないんです。倒れる前は……『出てった』と……」
賀州はしばらく零の顔を見つめたのち口を開いた。