『Stella』のレコーディングが終わり、藤谷と少し打合せをしたあと家に戻った零はテーブルの上いっぱいに並べられた料理に目を丸くした。
「すごいでしょお!」
美也が得意げに腰に手を当ててふんぞり返る。
「これはね、サルティンボッカ。鶏肉で作ってみた。これはわかるよね、マルゲリータで、こっちはカプレーゼ、これはフォカッチャ、トマトのパスタ、そしてワイン」
「どうしたの? 全部美也が作ったの?」
零の家にはろくな種類の皿もないのに、美也はなんとかごちゃまぜで盛り付けしたらしい。
「サルティンボッカとフォカッチャは泉さんのところで作ったの。教室で一緒に。これ、温め直しだから味がちょっと心配。マルゲリータはピザ台に具だけ乗せて持って帰って小分けにして焼いたの。カプレーゼとパスタはレシピをメモって美也ちゃんお手製だよー。ワインは適当に買って来た」
「へー……」
美也が普通のガラスのカップにワインを注ぐのを見ながら零は呆然としてテーブルを見つめる。
「食べよ、食べよ」
美也は零を座らせるとカップを持ち上げた。
「零ちゃん、がんばれにかんぱーい」
「なにそれ」
笑いながら零もグラスを持ち上げて美也の持ったグラスにかちりと合わせる。
「泉さんのアシスタントが楽しそうだね」
そう言うと美也はうんうんとうなずいた。
「楽しい。すっごく楽しい。わたし、泉さんに弟子入りしようかな」
美也の生き生きとした顔を見るとほっとする。良かった、元気になってくれて。
そう思ってパスタを口に入れた。
「ん、美味しい」
「『ペンギン』のパスタとは違うでしょ?」
美也は笑う。
「『ペンギン』のパスタも好きだな。咲さんのミートソース、美味しい」
「うちのミートソース、フレッシュトマトから作ってるし、隠し味にちょこっとお味噌入れてるからね」
「味噌入れるの?」
「うん。コクが出るんだよ」
「へー……」
料理を口に運ぶ零をしばらく見つめて、美也は零の顔を覗き込むように顔を傾けた。
「零ちゃん…… いろいろ心配かけてごめんね。わたし、もうあの『スカボロー・フェア』を聴いても大丈夫になったよ」
美也の言葉に零は顔をあげた。
「零ちゃんと小野さんが創り上げた世界が何となく理解できるような気がしてきたの。なんだか救いを求めてるような感じがしたの。エルフィン・ナイトが、なのか、恋人なのか、そこはまだよくわかんないんだけど」
「救い……?」
そんな風には思ったこともなかった零は目を細めた。
「なんかそんな気がしただけ」
美也はちらりと笑みを浮かべて、ピザをほおばった。
救い……? そんな感じだっただろうか……
歌っている最中に脳裏に浮かんだ黒い翼を思い出した。
『エルフィン・ナイトは魂の駆け引きに勝ちました』
キリエはあの時そう言った。
でも、それは『救い』とは繋がらないような気がするし。
「零ちゃん、もうお腹いっぱいになった?」
手が止まっている零を見て美也が心配そうに尋ねる。
「あ、ごめん、あんまりにも美味しくてぼうっとしてた」
「あはは、そういうことさらっと言うのって藤谷さんの影響だよねえ?」
笑う美也の顔を見て零も笑みを返したのだった。
「すごいでしょお!」
美也が得意げに腰に手を当ててふんぞり返る。
「これはね、サルティンボッカ。鶏肉で作ってみた。これはわかるよね、マルゲリータで、こっちはカプレーゼ、これはフォカッチャ、トマトのパスタ、そしてワイン」
「どうしたの? 全部美也が作ったの?」
零の家にはろくな種類の皿もないのに、美也はなんとかごちゃまぜで盛り付けしたらしい。
「サルティンボッカとフォカッチャは泉さんのところで作ったの。教室で一緒に。これ、温め直しだから味がちょっと心配。マルゲリータはピザ台に具だけ乗せて持って帰って小分けにして焼いたの。カプレーゼとパスタはレシピをメモって美也ちゃんお手製だよー。ワインは適当に買って来た」
「へー……」
美也が普通のガラスのカップにワインを注ぐのを見ながら零は呆然としてテーブルを見つめる。
「食べよ、食べよ」
美也は零を座らせるとカップを持ち上げた。
「零ちゃん、がんばれにかんぱーい」
「なにそれ」
笑いながら零もグラスを持ち上げて美也の持ったグラスにかちりと合わせる。
「泉さんのアシスタントが楽しそうだね」
そう言うと美也はうんうんとうなずいた。
「楽しい。すっごく楽しい。わたし、泉さんに弟子入りしようかな」
美也の生き生きとした顔を見るとほっとする。良かった、元気になってくれて。
そう思ってパスタを口に入れた。
「ん、美味しい」
「『ペンギン』のパスタとは違うでしょ?」
美也は笑う。
「『ペンギン』のパスタも好きだな。咲さんのミートソース、美味しい」
「うちのミートソース、フレッシュトマトから作ってるし、隠し味にちょこっとお味噌入れてるからね」
「味噌入れるの?」
「うん。コクが出るんだよ」
「へー……」
料理を口に運ぶ零をしばらく見つめて、美也は零の顔を覗き込むように顔を傾けた。
「零ちゃん…… いろいろ心配かけてごめんね。わたし、もうあの『スカボロー・フェア』を聴いても大丈夫になったよ」
美也の言葉に零は顔をあげた。
「零ちゃんと小野さんが創り上げた世界が何となく理解できるような気がしてきたの。なんだか救いを求めてるような感じがしたの。エルフィン・ナイトが、なのか、恋人なのか、そこはまだよくわかんないんだけど」
「救い……?」
そんな風には思ったこともなかった零は目を細めた。
「なんかそんな気がしただけ」
美也はちらりと笑みを浮かべて、ピザをほおばった。
救い……? そんな感じだっただろうか……
歌っている最中に脳裏に浮かんだ黒い翼を思い出した。
『エルフィン・ナイトは魂の駆け引きに勝ちました』
キリエはあの時そう言った。
でも、それは『救い』とは繋がらないような気がするし。
「零ちゃん、もうお腹いっぱいになった?」
手が止まっている零を見て美也が心配そうに尋ねる。
「あ、ごめん、あんまりにも美味しくてぼうっとしてた」
「あはは、そういうことさらっと言うのって藤谷さんの影響だよねえ?」
笑う美也の顔を見て零も笑みを返したのだった。