翌朝、ソファで眠っていた零は咲からの電話で起こされた。
『あ、零ちゃん? ごめんね、まだ寝てた?』
「いえ、大丈夫です。おはようございます」
寝起きでくぐもった声で答える。
『美也が迷惑かけちゃってごめんね。どうしてる?』
「まだ…… 寝てます。けっこう酔っ払って来たから……」
『やだ、呆れた…… ごめんね、ほんとに……。昨日、店にね、小野キリエさんがいらしたのよね。前にも一度いらしたんだけど、美也がけっこう嫌がっちゃって、お客様にそういうのはダメってわたし怒ったの。そのあとは普通に対応してたから大丈夫かなって思ってたんだけど、ちょっときつく言い過ぎたのかなって……』
「小野さん、前も来たんですか?」
零は眉を潜めた。
『前に一回だけね。その時、美也すごく困ったような顔してたのよね。小野キリエさんてキムチの人だよね? 私はあの時知らなかったけど、美也が言ってた。零ちゃんとお仕事してるんでしょ? なんか、そっちにも迷惑かかると申し訳なくて……』
「それは大丈夫だけど…… 美也はなんか小野さんに言われたんですか」
『それはわかんないの。何にも言わなかったから』
小野キリエは前にも『ペンギン』に行ってる。彼女の事務所から『ペンギン』は遠い。なんでわざわざ……
『また美也には連絡するけど、しばらくお店を休ませようと思うの。わたしの怪我でだいぶん無理もさせたし。今はもう厨房もホールも回ってるし大丈夫だと思う。美也は零ちゃんのそばがいいみたいだから…… そちらに居させてやってもいい?』
「それは全然かまわないです。荷物もこっちにたくさん持ってきてるし」
『ごめんね……』
「おばさん」
零は束の間言葉を切ったのに思い切って口を開いた。
「あの…… また…… 改めてご挨拶にと思ってるけれど…… 美也と結婚したいと思ってます」
『え? なに? いまさら?』
咲の反応はまあ予想していたことだった。
『あいさつなんて堅苦しい…… 法的に早く夫婦になりたいんだったら届け、出しちゃってもかまわないのよ?』
「え、いや、いくらなんでもそれは……」
『まあ、旦那は娘のことだからうだうだ言うかもしれないけど、お互い別に若すぎるってわけでもなし、そもそも何年一緒にいるのよ。零ちゃんがだめだったらほかに誰がいるのって話だわ』
「はあ……」
『正式に夫婦になってくれるんならわたしも肩の荷が下りる。なんかあるごとに黙って家を抜け出されちゃたまんない』
咲は笑った。
『あ、でもさ、婚姻届け出す日決まったら教えて? できたら店が休みの日がいい。お祝いしよ、お祝い。藤谷さんと社長さんも呼んでよ。『ペンギン』貸切るから。広瀬さんにもお願いしなきゃ』
咲は気が早い。
とりあえずウキウキしてしまった咲を少しなだめて電話を切ったあと、すぐにまた着信があった。相手は藤谷だ。
『起きてる? 午後から梶谷さんところ行くよ?』
そうだ…… 今日はボイトレの日だ……
今日はさすがに声が出ないかもしれない……
「藤谷さん、すみません、今日、梶谷さんのところキャンセルできますか?」
『ん? どうした? 体調悪いか?』
零は美也が寝ている寝室にちらりと目を向けた。
「今からそっち行ってもいいですか? ちょっと話したいことがあって」
『いいよ? 梶谷さんところは連絡入れとく』
「お願いします」
零は手早く顔を洗うと『藤谷さんのところにいる』と伝言書いてテーブルに置き、部屋を出た。
『あ、零ちゃん? ごめんね、まだ寝てた?』
「いえ、大丈夫です。おはようございます」
寝起きでくぐもった声で答える。
『美也が迷惑かけちゃってごめんね。どうしてる?』
「まだ…… 寝てます。けっこう酔っ払って来たから……」
『やだ、呆れた…… ごめんね、ほんとに……。昨日、店にね、小野キリエさんがいらしたのよね。前にも一度いらしたんだけど、美也がけっこう嫌がっちゃって、お客様にそういうのはダメってわたし怒ったの。そのあとは普通に対応してたから大丈夫かなって思ってたんだけど、ちょっときつく言い過ぎたのかなって……』
「小野さん、前も来たんですか?」
零は眉を潜めた。
『前に一回だけね。その時、美也すごく困ったような顔してたのよね。小野キリエさんてキムチの人だよね? 私はあの時知らなかったけど、美也が言ってた。零ちゃんとお仕事してるんでしょ? なんか、そっちにも迷惑かかると申し訳なくて……』
「それは大丈夫だけど…… 美也はなんか小野さんに言われたんですか」
『それはわかんないの。何にも言わなかったから』
小野キリエは前にも『ペンギン』に行ってる。彼女の事務所から『ペンギン』は遠い。なんでわざわざ……
『また美也には連絡するけど、しばらくお店を休ませようと思うの。わたしの怪我でだいぶん無理もさせたし。今はもう厨房もホールも回ってるし大丈夫だと思う。美也は零ちゃんのそばがいいみたいだから…… そちらに居させてやってもいい?』
「それは全然かまわないです。荷物もこっちにたくさん持ってきてるし」
『ごめんね……』
「おばさん」
零は束の間言葉を切ったのに思い切って口を開いた。
「あの…… また…… 改めてご挨拶にと思ってるけれど…… 美也と結婚したいと思ってます」
『え? なに? いまさら?』
咲の反応はまあ予想していたことだった。
『あいさつなんて堅苦しい…… 法的に早く夫婦になりたいんだったら届け、出しちゃってもかまわないのよ?』
「え、いや、いくらなんでもそれは……」
『まあ、旦那は娘のことだからうだうだ言うかもしれないけど、お互い別に若すぎるってわけでもなし、そもそも何年一緒にいるのよ。零ちゃんがだめだったらほかに誰がいるのって話だわ』
「はあ……」
『正式に夫婦になってくれるんならわたしも肩の荷が下りる。なんかあるごとに黙って家を抜け出されちゃたまんない』
咲は笑った。
『あ、でもさ、婚姻届け出す日決まったら教えて? できたら店が休みの日がいい。お祝いしよ、お祝い。藤谷さんと社長さんも呼んでよ。『ペンギン』貸切るから。広瀬さんにもお願いしなきゃ』
咲は気が早い。
とりあえずウキウキしてしまった咲を少しなだめて電話を切ったあと、すぐにまた着信があった。相手は藤谷だ。
『起きてる? 午後から梶谷さんところ行くよ?』
そうだ…… 今日はボイトレの日だ……
今日はさすがに声が出ないかもしれない……
「藤谷さん、すみません、今日、梶谷さんのところキャンセルできますか?」
『ん? どうした? 体調悪いか?』
零は美也が寝ている寝室にちらりと目を向けた。
「今からそっち行ってもいいですか? ちょっと話したいことがあって」
『いいよ? 梶谷さんところは連絡入れとく』
「お願いします」
零は手早く顔を洗うと『藤谷さんのところにいる』と伝言書いてテーブルに置き、部屋を出た。