数日間ばたばたとスケジュールをこなし、零は梶谷のところでトレーニングを開始した。
『Lightning 』と『Stella』は『KIRIE』よりも歌いやすかったが、『eau du ciel』はやっぱりきつい。一度流したところで高音部が全く届かないことを思い知った。
梶谷は少しずつ練習して行こうと言い、先に発音をチェックしてもらうために『スカボロー・フェア』を録音した。
一度は『ペンギン』にも寄りたかったが、それも叶わなかった。
美也からは一日置きくらいに電話が来る。
「おばさんの具合どう?」
そう尋ねると、
『ちょっとずつだけど痛みは少なくなってきてる、って言ってた。でも無理しちゃだめだってお医者さんから言われてるし、松葉杖つけないしね』
と美也は答えた。確かに左足と左手首なら松葉杖は無理だ。
「お店は?」
『なんとか回ってる。前に厨房入ってた広瀬さんが来てくれたし。広瀬さん、覚えて…… ないよね』
「うーん……」
零は記憶を辿るが覚えがなかった。
『実はわたしもあんまり覚えがないんだ。お母さんの大学の先輩。自分のお店は息子さんが切り盛りしてるから大丈夫だって、助っ人に来てくれたの。あと、バイトも募集してる』
「美也も体を壊すなよ」
『それは大丈夫。お父さんの仕事が家だからほんと助かってる。お母さん見張っててもらえるし』
「え? 見張る?」
『ほっとくとすぐ動くもん。お母さん。わたしがいない間はお父さんが監視役』
美也はふふっと笑った。
『それより、零ちゃん、仕事うまくいってる? アルバム』
「うん…… きつい曲でちょっと難航はしてるけど、まだ時間もあるし」
『できあがるの楽しみにしてるね』
「ありがとう。それでね、美也……」
『スカボロー・フェア』のことを言おうとしたとき、美也がスマホから口を離して「わかったー」と誰かに返事をするのがわかった。
『零ちゃん、ごめん、お母さんのお風呂の番になった。手伝わないと。また電話していい? 零ちゃんの声聞くと元気出る』
「もちろん。がんばってな」
『うん。じゃね』
結局また言いそびれた。毎回この調子だ。
美也は家と店をなんとか自分が踏ん張っていかないといけないと気負っているせいか、以前のような甘えた雰囲気が減った。
なんだか自分のほうがひとりでうじうじしているような気がする……
だめじゃん、おれ。
忙しくしている美也にあまり気持ちよくない話はしないほうがいいかもしれない。
おれはおれで自分の仕事を全うしよう。
そう思った。
『Lightning 』と『Stella』は『KIRIE』よりも歌いやすかったが、『eau du ciel』はやっぱりきつい。一度流したところで高音部が全く届かないことを思い知った。
梶谷は少しずつ練習して行こうと言い、先に発音をチェックしてもらうために『スカボロー・フェア』を録音した。
一度は『ペンギン』にも寄りたかったが、それも叶わなかった。
美也からは一日置きくらいに電話が来る。
「おばさんの具合どう?」
そう尋ねると、
『ちょっとずつだけど痛みは少なくなってきてる、って言ってた。でも無理しちゃだめだってお医者さんから言われてるし、松葉杖つけないしね』
と美也は答えた。確かに左足と左手首なら松葉杖は無理だ。
「お店は?」
『なんとか回ってる。前に厨房入ってた広瀬さんが来てくれたし。広瀬さん、覚えて…… ないよね』
「うーん……」
零は記憶を辿るが覚えがなかった。
『実はわたしもあんまり覚えがないんだ。お母さんの大学の先輩。自分のお店は息子さんが切り盛りしてるから大丈夫だって、助っ人に来てくれたの。あと、バイトも募集してる』
「美也も体を壊すなよ」
『それは大丈夫。お父さんの仕事が家だからほんと助かってる。お母さん見張っててもらえるし』
「え? 見張る?」
『ほっとくとすぐ動くもん。お母さん。わたしがいない間はお父さんが監視役』
美也はふふっと笑った。
『それより、零ちゃん、仕事うまくいってる? アルバム』
「うん…… きつい曲でちょっと難航はしてるけど、まだ時間もあるし」
『できあがるの楽しみにしてるね』
「ありがとう。それでね、美也……」
『スカボロー・フェア』のことを言おうとしたとき、美也がスマホから口を離して「わかったー」と誰かに返事をするのがわかった。
『零ちゃん、ごめん、お母さんのお風呂の番になった。手伝わないと。また電話していい? 零ちゃんの声聞くと元気出る』
「もちろん。がんばってな」
『うん。じゃね』
結局また言いそびれた。毎回この調子だ。
美也は家と店をなんとか自分が踏ん張っていかないといけないと気負っているせいか、以前のような甘えた雰囲気が減った。
なんだか自分のほうがひとりでうじうじしているような気がする……
だめじゃん、おれ。
忙しくしている美也にあまり気持ちよくない話はしないほうがいいかもしれない。
おれはおれで自分の仕事を全うしよう。
そう思った。