「なんだか最近機嫌いいわねえ……」
鼻歌まじりにホールを動き回る美也に咲は冷やかし気味に声をかけた。
「毎晩零ちゃんと話ししてるの?」
「零と話をしたのは一回だけ。忙しいのにそんなたくさんかけちゃ悪いもん」
でも、スカボローフェアを歌ってくれたことは内緒。
零が耳元で歌ってくれる。これは大事なわたしだけの零との宝物。
「あんたたち早く結婚しちゃいなさいね。おかあさんたち手ぐすねひいて待ってるわよ」
咲の言葉に美也は笑い、来客の気配を感じて振り向いた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
隅の席に座った女の子に水とおしぼりを出しながら美也は尋ねる。
キャスケットを被り、白いTシャツに薄青いカーディガン、大き目のジーンズ……
彼女がちらりと自分の左手の薬指に目をやるのがわかった。
「あの……」
「はい」
美也は伝票を構えてにこりと答える。
「ミヤさん…… ですか?」
「え?」
美也は面食らった。
「あ、急にすみません。小野キリエです」
相手がちょっと顔を赤くしてぺこんと頭を下げた。
小野キリエ……。
MVで見たときと全然雰囲気が違う……
「あの…… どうしてわたしのこと……」
「アーカーのサイト、零さんと一緒に見たんです。美也さんにプレゼントしたいって言ってました」
なんだか状況がよく呑み込めない。
と、いうか……
「わたしがここにいるって…… 零が言いました?」
おそるおそる尋ねてみた。
「いえ…… 前に零さんとここで会ったことあるんです」
「え?」
そんな記憶はなかった。咲も何にも言わなかった。
「あ、変な言い方してごめんなさい。お仕事で迷惑かけてしまったので、お詫びのキムチ、届けるためにお会いしたんです」
「キムチ…… ああ!」
やっと美也は思い出した。
1キロのキムチ。零がもらったけれど、食べきれないから引き取ってと言われたと咲が言っていた。
「あれ、小野さんだったんですか?やだ、すみません、わたし、いただいちゃいました」
美也はあははと笑った。
屈託のない顔をキリエはふふと笑って見つめた。
「零さん、必死になってアーカーのサイト見てましたよ。藤谷さんも一緒になって騒ぎながら」
「やだ、そうなんですね……」
なんだか恥ずかしかった。でも、零がそんなに一生懸命選んでくれたなんて……。
「あ、すみません、お仕事中に……」
キリエが慌てて言ったので、美也は手を振った。
「今日はお客さん少ないから大丈夫です。小野さんが来てくださるなんて光栄です。ご注文、どうされます?」
「あ、じゃあ、ミルクティーを……」
「はい!」
オーダーをとって戻ってくると咲が怪訝な顔をしていた。
「知り合い?」
「小野キリエさん。零と歌ってた人」
ひそひそ声で言うと咲は目を丸くした。
キリエの元にミルクティーを持って行く頃には店にはキリエ以外一組の客しかいなくなっていた。
「お待たせしました」
カップをテーブルに置くとキリエは小さく会釈した。
「あの、シフォンケーキお好きですか? ミルクシフォンケーキ ごちそうしますよ。今日はわたしが作ったんです」
遠慮がちに尋ねるとキリエは嬉しそうに顔をほころばせた。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…… 美也さんのケーキ、食べてみたいです」
彼女の笑みに美也はほっとした。
KIRIEのMVを見たときの気持ちや零に電話をかけてきたときの不安がなんだか恥ずかしかった。
鼻歌まじりにホールを動き回る美也に咲は冷やかし気味に声をかけた。
「毎晩零ちゃんと話ししてるの?」
「零と話をしたのは一回だけ。忙しいのにそんなたくさんかけちゃ悪いもん」
でも、スカボローフェアを歌ってくれたことは内緒。
零が耳元で歌ってくれる。これは大事なわたしだけの零との宝物。
「あんたたち早く結婚しちゃいなさいね。おかあさんたち手ぐすねひいて待ってるわよ」
咲の言葉に美也は笑い、来客の気配を感じて振り向いた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
隅の席に座った女の子に水とおしぼりを出しながら美也は尋ねる。
キャスケットを被り、白いTシャツに薄青いカーディガン、大き目のジーンズ……
彼女がちらりと自分の左手の薬指に目をやるのがわかった。
「あの……」
「はい」
美也は伝票を構えてにこりと答える。
「ミヤさん…… ですか?」
「え?」
美也は面食らった。
「あ、急にすみません。小野キリエです」
相手がちょっと顔を赤くしてぺこんと頭を下げた。
小野キリエ……。
MVで見たときと全然雰囲気が違う……
「あの…… どうしてわたしのこと……」
「アーカーのサイト、零さんと一緒に見たんです。美也さんにプレゼントしたいって言ってました」
なんだか状況がよく呑み込めない。
と、いうか……
「わたしがここにいるって…… 零が言いました?」
おそるおそる尋ねてみた。
「いえ…… 前に零さんとここで会ったことあるんです」
「え?」
そんな記憶はなかった。咲も何にも言わなかった。
「あ、変な言い方してごめんなさい。お仕事で迷惑かけてしまったので、お詫びのキムチ、届けるためにお会いしたんです」
「キムチ…… ああ!」
やっと美也は思い出した。
1キロのキムチ。零がもらったけれど、食べきれないから引き取ってと言われたと咲が言っていた。
「あれ、小野さんだったんですか?やだ、すみません、わたし、いただいちゃいました」
美也はあははと笑った。
屈託のない顔をキリエはふふと笑って見つめた。
「零さん、必死になってアーカーのサイト見てましたよ。藤谷さんも一緒になって騒ぎながら」
「やだ、そうなんですね……」
なんだか恥ずかしかった。でも、零がそんなに一生懸命選んでくれたなんて……。
「あ、すみません、お仕事中に……」
キリエが慌てて言ったので、美也は手を振った。
「今日はお客さん少ないから大丈夫です。小野さんが来てくださるなんて光栄です。ご注文、どうされます?」
「あ、じゃあ、ミルクティーを……」
「はい!」
オーダーをとって戻ってくると咲が怪訝な顔をしていた。
「知り合い?」
「小野キリエさん。零と歌ってた人」
ひそひそ声で言うと咲は目を丸くした。
キリエの元にミルクティーを持って行く頃には店にはキリエ以外一組の客しかいなくなっていた。
「お待たせしました」
カップをテーブルに置くとキリエは小さく会釈した。
「あの、シフォンケーキお好きですか? ミルクシフォンケーキ ごちそうしますよ。今日はわたしが作ったんです」
遠慮がちに尋ねるとキリエは嬉しそうに顔をほころばせた。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…… 美也さんのケーキ、食べてみたいです」
彼女の笑みに美也はほっとした。
KIRIEのMVを見たときの気持ちや零に電話をかけてきたときの不安がなんだか恥ずかしかった。