『あ、もしもし、あの、神西零さんですか?』
「美也?!」
えっ?どうして?
零は思わずスマホの画面を見てしまった。
『あら、よくおわかりで。川島美也でございますぅ』
美也が笑いながら言うのが聞こえる。
「なに? どしたの? スマホ買ったの?」
『今日ね、お店休みだったからおかあさんとショップに行った。なんかプランがいろいろあってわたし、よくわかんなかったし』
「そうなんだ……」
『巧也とおかあさんの番号教えてもらうついでに零ちゃんの番号も教えてもらった』
「おれはついでかよ」
『もう、そういう言葉のあやをつつかないでよ』
「なんで急にスマホ持つ気になったの?」
『んー…… 何となく急に持ちたくなった。辛くても零ちゃんの声をやっぱりもっと聞きたい。あ、でも、そんなしょっちゅうかけたりしないから。仕事の邪魔しちゃ悪いし』
「いいよ、別にかけても。出られなかったら折り返すから」
『うん…… でも無理しなくていいよ。わたしもちゃんとわきまえるから』
美也は答えた。
『でも、今日もね、夜遅いからやめとこうって思ったんだけど、どうしても零ちゃんの声聞きたくなっちゃって…… スマホ手に入れたから興奮しちゃって眠れなくて……』
「子供みたいだな」
零は笑った。電話の向こうで美也が頬を膨らませるのが目に見えるようだ。
「眠れないんなら歌うたってあげようか」
『え? プライベートコンサート? うわ、役得!』
美也がうわずった声をあげた。
「明日の朝、また仕込みあるんだろ? 布団にはいんな。歌ってやるから」
『え、ちょっと待ってよ』
ごそごそと音がする。
『はい、オッケーです』
「なに歌って欲しい?」
『えー? 考えてなかった…… 零ちゃんの好きな曲でいいよ』
「じゃ、スカボローフェアにしようか。美也好きだっただろ?」
『ああ、お父さんがよく聴いてたからね。でも、あれ英語だよ? 歌えるの?』
「覚えた。意味はよくわかんないけど」
『イギリスの民謡だよ。妖精の騎士に少女が恋をするの。騎士は少女に無理難題言って、これが達成できたら結婚するよって言うの。それに対して少女も無理難題言って、これが達成できたらあなたを諦めるって言うの。騎士は実は自分は妻も子どももいるって言ったの。少女はそれで騎士のことを諦めるのよ』
「そんな物語があるんだ……」
『わたしはあきらめた少女はそのあとどうしたのかなあって考えてた』
「きっと幸せになってるよ」
『だといいね』
「じゃあ、歌うよ。目を閉じて。ちゃんと寝るんだよ」
『はーい』
零はゆっくりと歌い始めた。
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thym.……
何度も何度も繰り返し歌って、しばらくして零は歌うのをやめた。
「美也?」
小さく問いかけても返事はなかった。
「おやすみ、美也」
零は小さく笑って電話を切った。
その間に別の電話が何度も入っていたことは気づかなかった。
「美也?!」
えっ?どうして?
零は思わずスマホの画面を見てしまった。
『あら、よくおわかりで。川島美也でございますぅ』
美也が笑いながら言うのが聞こえる。
「なに? どしたの? スマホ買ったの?」
『今日ね、お店休みだったからおかあさんとショップに行った。なんかプランがいろいろあってわたし、よくわかんなかったし』
「そうなんだ……」
『巧也とおかあさんの番号教えてもらうついでに零ちゃんの番号も教えてもらった』
「おれはついでかよ」
『もう、そういう言葉のあやをつつかないでよ』
「なんで急にスマホ持つ気になったの?」
『んー…… 何となく急に持ちたくなった。辛くても零ちゃんの声をやっぱりもっと聞きたい。あ、でも、そんなしょっちゅうかけたりしないから。仕事の邪魔しちゃ悪いし』
「いいよ、別にかけても。出られなかったら折り返すから」
『うん…… でも無理しなくていいよ。わたしもちゃんとわきまえるから』
美也は答えた。
『でも、今日もね、夜遅いからやめとこうって思ったんだけど、どうしても零ちゃんの声聞きたくなっちゃって…… スマホ手に入れたから興奮しちゃって眠れなくて……』
「子供みたいだな」
零は笑った。電話の向こうで美也が頬を膨らませるのが目に見えるようだ。
「眠れないんなら歌うたってあげようか」
『え? プライベートコンサート? うわ、役得!』
美也がうわずった声をあげた。
「明日の朝、また仕込みあるんだろ? 布団にはいんな。歌ってやるから」
『え、ちょっと待ってよ』
ごそごそと音がする。
『はい、オッケーです』
「なに歌って欲しい?」
『えー? 考えてなかった…… 零ちゃんの好きな曲でいいよ』
「じゃ、スカボローフェアにしようか。美也好きだっただろ?」
『ああ、お父さんがよく聴いてたからね。でも、あれ英語だよ? 歌えるの?』
「覚えた。意味はよくわかんないけど」
『イギリスの民謡だよ。妖精の騎士に少女が恋をするの。騎士は少女に無理難題言って、これが達成できたら結婚するよって言うの。それに対して少女も無理難題言って、これが達成できたらあなたを諦めるって言うの。騎士は実は自分は妻も子どももいるって言ったの。少女はそれで騎士のことを諦めるのよ』
「そんな物語があるんだ……」
『わたしはあきらめた少女はそのあとどうしたのかなあって考えてた』
「きっと幸せになってるよ」
『だといいね』
「じゃあ、歌うよ。目を閉じて。ちゃんと寝るんだよ」
『はーい』
零はゆっくりと歌い始めた。
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thym.……
何度も何度も繰り返し歌って、しばらくして零は歌うのをやめた。
「美也?」
小さく問いかけても返事はなかった。
「おやすみ、美也」
零は小さく笑って電話を切った。
その間に別の電話が何度も入っていたことは気づかなかった。