一連のCMの仕事が終わって、キリエは再び台湾に行き、零は次のシングルの仕事に入った。
藤谷が相変わらずばたばたとシャツを仰ぎながら差し向いにデスクに座って零の顔を見た。
「小野さんとこがさ、ふたりで歌う曲数増やしてアルバム出さないかって打診してきてるんだけど。社長は零の意向を確認してみて欲しいって。まあ、映画とCMで勢いついてるからお互いメリットはあるかもね、とは言ってたけど、どうする?」
「んー……」
零は考え込んだ。キリエとの会話が蘇る。
「どうしようかなあ……」
「あれ。迷うなんて意外。いいよ、って言うと思ってた」
藤谷は目を丸くした。
「いや、別にいいんだけど…… 例えば、おれのアルバムに小野さんがフューチャーリングするとか小野さんのバックでおれがちょこっと歌うとか、そういうんならいいんだけど、withだけでアルバム作るのは…… できれば…… 避けたいかな……」
「なんで? 小野さんとうまくいかない?」
藤谷は合点がいかないようだ。
「そういうんじゃないけど…… うーん……」
零は言い澱んだ。さすがにキリエがちょっと気持ち悪い、とは言えない。
その気持ち悪さが別に性格とか見た目とかそういうことではなくて、不可思議なことを言われることでなんだか振り回されそうな気がするからだ。
何かすごく重いことを言われているような感じがする。
「うん…… まあ、零がそう言うんならとりあえず今はちょっと保留ということでって伝えるよ」
「すみません」
「お互い忙しい身だしね。スケジュール調整がつかないとか言えば向こうもそれ以上せっつかないよ」
藤谷は笑みを見せた。
これで何とか大丈夫かな、と一抹の不安を感じながらその場はそれで済んだのだが、数日後。仕事が終わってマンションで一息ついたときに鳴ったスマホに零はぎくりとした。
番号を見ると案の定、キリエだった。
どうしようかと迷った末、無視するのもなんだかと思い、出ることにした。
「もしもし」
『あ、キリエです。すみません、夜分に……』
「いえ、何か?」
『あ、えと…… あの…… アルバムの件なんですが……』
やっぱり、と思った。
「うん、ごめんね。スケジュール都合つかないんだ。またどこかでタイミングが合えばということでお願いできる?」
『いつ頃だったらつきそうでしょうか』
「それは今おれからは具体的に答えられない」
零はきっぱりと答えた。
「藤谷さんを通してくれるかな。おれは次のシングルのことで頭いっぱいだし」
『でも、前にアルバム作れるくらい一緒に歌ってくださるって言ってくださいましたよね?』
おれ、そんなこと言ったっけ……
零は記憶を辿ろうと視線を泳がせた。
『わたしと歌うの楽しいって言ってくれましたよね? 別世界に行くみたいだって』
KIRIEのときかな……
零は頭の隅で考えた。
「あの…… 藤谷とも話をしたんだけど、withでアルバム一枚作るくらいまでの時間はなかなか難しいと思う。悪いけど……。またタイミング見て、連絡してみてくれる?」
『わかりました。ごめんなさい、遅くに……』
「いや、こちらこそ。それじゃ……」
電話を切って、零はふうと溜息をついた。
どんなにアルバムを作りたくても、双方の気持ちが乗らないといいものはできない。
自分が気乗りでないことはキリエも察しているだろう。
はー…… と大きく息を吐いてソファの背に身を預けたとき、再びスマホが鳴ったのでびくっとした。
また?
恐る恐るとりあげてみると、全く知らない番号だった。誰だろう……
「もしもし……」
警戒しながら出ると、思いがけない声が聞こえてきた。
藤谷が相変わらずばたばたとシャツを仰ぎながら差し向いにデスクに座って零の顔を見た。
「小野さんとこがさ、ふたりで歌う曲数増やしてアルバム出さないかって打診してきてるんだけど。社長は零の意向を確認してみて欲しいって。まあ、映画とCMで勢いついてるからお互いメリットはあるかもね、とは言ってたけど、どうする?」
「んー……」
零は考え込んだ。キリエとの会話が蘇る。
「どうしようかなあ……」
「あれ。迷うなんて意外。いいよ、って言うと思ってた」
藤谷は目を丸くした。
「いや、別にいいんだけど…… 例えば、おれのアルバムに小野さんがフューチャーリングするとか小野さんのバックでおれがちょこっと歌うとか、そういうんならいいんだけど、withだけでアルバム作るのは…… できれば…… 避けたいかな……」
「なんで? 小野さんとうまくいかない?」
藤谷は合点がいかないようだ。
「そういうんじゃないけど…… うーん……」
零は言い澱んだ。さすがにキリエがちょっと気持ち悪い、とは言えない。
その気持ち悪さが別に性格とか見た目とかそういうことではなくて、不可思議なことを言われることでなんだか振り回されそうな気がするからだ。
何かすごく重いことを言われているような感じがする。
「うん…… まあ、零がそう言うんならとりあえず今はちょっと保留ということでって伝えるよ」
「すみません」
「お互い忙しい身だしね。スケジュール調整がつかないとか言えば向こうもそれ以上せっつかないよ」
藤谷は笑みを見せた。
これで何とか大丈夫かな、と一抹の不安を感じながらその場はそれで済んだのだが、数日後。仕事が終わってマンションで一息ついたときに鳴ったスマホに零はぎくりとした。
番号を見ると案の定、キリエだった。
どうしようかと迷った末、無視するのもなんだかと思い、出ることにした。
「もしもし」
『あ、キリエです。すみません、夜分に……』
「いえ、何か?」
『あ、えと…… あの…… アルバムの件なんですが……』
やっぱり、と思った。
「うん、ごめんね。スケジュール都合つかないんだ。またどこかでタイミングが合えばということでお願いできる?」
『いつ頃だったらつきそうでしょうか』
「それは今おれからは具体的に答えられない」
零はきっぱりと答えた。
「藤谷さんを通してくれるかな。おれは次のシングルのことで頭いっぱいだし」
『でも、前にアルバム作れるくらい一緒に歌ってくださるって言ってくださいましたよね?』
おれ、そんなこと言ったっけ……
零は記憶を辿ろうと視線を泳がせた。
『わたしと歌うの楽しいって言ってくれましたよね? 別世界に行くみたいだって』
KIRIEのときかな……
零は頭の隅で考えた。
「あの…… 藤谷とも話をしたんだけど、withでアルバム一枚作るくらいまでの時間はなかなか難しいと思う。悪いけど……。またタイミング見て、連絡してみてくれる?」
『わかりました。ごめんなさい、遅くに……』
「いや、こちらこそ。それじゃ……」
電話を切って、零はふうと溜息をついた。
どんなにアルバムを作りたくても、双方の気持ちが乗らないといいものはできない。
自分が気乗りでないことはキリエも察しているだろう。
はー…… と大きく息を吐いてソファの背に身を預けたとき、再びスマホが鳴ったのでびくっとした。
また?
恐る恐るとりあげてみると、全く知らない番号だった。誰だろう……
「もしもし……」
警戒しながら出ると、思いがけない声が聞こえてきた。