話があったというCMは清涼飲料水で、キャッチフレーズは『水より透明感』。
キリエと零の雰囲気と声が合いそうだから、ということだった。
『KIRIE』が影の多い雰囲気だったのに対し、こちらはキャッチフレーズに合わせてキラキラと白っぽい感じにしてもらいたい、ということで、『KIRIE』と同じ監督とスタッフで作成されることになった。だから小野キリエの要望も理解してくれていたが、零の姿だけはもう少し出すことになった。飲み物だから、そのへんの絵がないと消費者に伝えにくいからだ。
バックに流れる歌はキリエがメインで、ロングバージョンでは零がメインで歌っている部分も入る。もちろん、キリエが新しく作詞作曲する。
キリエはCMのコンセプトを聞いてイメージが湧いたからと早速曲づくりを始めた。
タイトルは『AQUA』。こちらはMVもまた撮影することになる。
テレビなどで流れるときは15秒程度だから、本当にキリエの歌うサビ部分になるかもしれない。
それでも一応シングルとして発売するからレコーディングはする。
バタバタと慌ただしく時間が過ぎていった。
零とキリエがふたりっきりになったのは、賀州と藤谷が別室でこのあとのスケジュールについてすり合わせを始めた時だった。
「小野さん、ほんとにいつもいい曲作るね。枯渇することってないんじゃない?」
零は自販機で買ったコーヒーをキリエにも渡してやりながら言った。
「零さんに歌ってもらいたいからです……」
キリエはコーヒーの紙コップを受け取って答えた。
「零さんが歌ってくれると、私の中のものが負けていくんです」
「……」
零は怪訝そうにキリエを見た。なんかそういうこと前にも言っていたような……。
「零さん、ずっとわたしと一緒に歌ってもらえます?」
「ずっとって…… まあ、それはスケジュールとか事務所の方針とか、そういうのがいると思うけど……」
当たり前の返事をかえすと、キリエは僅かにうなずいてコーヒーを見つめた。
「零さんと歌えば歌うほど…… 負けていってるみたいです。波は零さんのほうがずっと大きかったみたい。早くいなくなってくれれば私は普通に戻れます」
この子やっぱり変だよ……
零は少し気持ち悪くなった。
「小野さん…… 前々から思ってたけど、忙しすぎるんじゃない? 賀州さんと話しして、スケジュールの余裕とってもらったほうがいいよ」
それを聞いてキリエはふっと笑みを漏らした。
「賀州さんは私の味方なんかしません。わたしの中のほうの味方だから」
いよいよ話が怪しくなってきた。この子、ほんっとにおかしい。
「賀州さんはまだ気付いてないんです。一緒に歌えば中のものが大きくなると思ってる。実は負けてるんだよ、っていう素振りをわたしは見せていないから」
「……」
「零さん、ずっと一緒に歌ってくださいね。わたしを助けて欲しいんです」
「小野さん」
零は断固とした口調で言った。
「これからも一緒に歌うかどうかは、事務所の判断に任せる。きみの曲は確かにいいと思うし好きだけど、きみのために歌うんじゃない。自分が歌うことが好きだから歌ってるんだ」
零は立ち上がった。
「きみとはいい友人で、同志だと思いたいから、この話はここまでね」
背を向けて歩いて行ってしまう零の後ろ姿をキリエは見て、顔を俯けた。
キリエと零の雰囲気と声が合いそうだから、ということだった。
『KIRIE』が影の多い雰囲気だったのに対し、こちらはキャッチフレーズに合わせてキラキラと白っぽい感じにしてもらいたい、ということで、『KIRIE』と同じ監督とスタッフで作成されることになった。だから小野キリエの要望も理解してくれていたが、零の姿だけはもう少し出すことになった。飲み物だから、そのへんの絵がないと消費者に伝えにくいからだ。
バックに流れる歌はキリエがメインで、ロングバージョンでは零がメインで歌っている部分も入る。もちろん、キリエが新しく作詞作曲する。
キリエはCMのコンセプトを聞いてイメージが湧いたからと早速曲づくりを始めた。
タイトルは『AQUA』。こちらはMVもまた撮影することになる。
テレビなどで流れるときは15秒程度だから、本当にキリエの歌うサビ部分になるかもしれない。
それでも一応シングルとして発売するからレコーディングはする。
バタバタと慌ただしく時間が過ぎていった。
零とキリエがふたりっきりになったのは、賀州と藤谷が別室でこのあとのスケジュールについてすり合わせを始めた時だった。
「小野さん、ほんとにいつもいい曲作るね。枯渇することってないんじゃない?」
零は自販機で買ったコーヒーをキリエにも渡してやりながら言った。
「零さんに歌ってもらいたいからです……」
キリエはコーヒーの紙コップを受け取って答えた。
「零さんが歌ってくれると、私の中のものが負けていくんです」
「……」
零は怪訝そうにキリエを見た。なんかそういうこと前にも言っていたような……。
「零さん、ずっとわたしと一緒に歌ってもらえます?」
「ずっとって…… まあ、それはスケジュールとか事務所の方針とか、そういうのがいると思うけど……」
当たり前の返事をかえすと、キリエは僅かにうなずいてコーヒーを見つめた。
「零さんと歌えば歌うほど…… 負けていってるみたいです。波は零さんのほうがずっと大きかったみたい。早くいなくなってくれれば私は普通に戻れます」
この子やっぱり変だよ……
零は少し気持ち悪くなった。
「小野さん…… 前々から思ってたけど、忙しすぎるんじゃない? 賀州さんと話しして、スケジュールの余裕とってもらったほうがいいよ」
それを聞いてキリエはふっと笑みを漏らした。
「賀州さんは私の味方なんかしません。わたしの中のほうの味方だから」
いよいよ話が怪しくなってきた。この子、ほんっとにおかしい。
「賀州さんはまだ気付いてないんです。一緒に歌えば中のものが大きくなると思ってる。実は負けてるんだよ、っていう素振りをわたしは見せていないから」
「……」
「零さん、ずっと一緒に歌ってくださいね。わたしを助けて欲しいんです」
「小野さん」
零は断固とした口調で言った。
「これからも一緒に歌うかどうかは、事務所の判断に任せる。きみの曲は確かにいいと思うし好きだけど、きみのために歌うんじゃない。自分が歌うことが好きだから歌ってるんだ」
零は立ち上がった。
「きみとはいい友人で、同志だと思いたいから、この話はここまでね」
背を向けて歩いて行ってしまう零の後ろ姿をキリエは見て、顔を俯けた。