「KIRIE」は菅野監督の映画「時-TOKI―」のPVと歌のMV公開でかなり話題になった。
小野キリエがほとんどメディアに出ないので、ちらりと映る彼女の姿は話題を呼んだ。
零はキリエを伴わないままラジオの出演やテレビの音楽番組の出演やらで忙しくなった。
もっとも、顔が出ない活字宣伝のほうはキリエが担当したから不平等、というわけではなかったが。
一段落ついたあとキリエは台湾に行き、零もやっと一息ついたのは美也と約束した2か月にさらに2か月過ぎた頃だった。
合間に行った『ペンギン』で約束をして、美也は店が終わってからいそいそと零のマンションにケーキを持ってやってきた。
「早く零ちゃんとケーキ食べたかったんだー。ここの、美味しいよ」
美也はさっそくソファの前の小さなテーブルにケーキのボックスを開け、コーヒーを淹れに立った。
「零ちゃん、コーヒー豆どこー?」
「棚の上」
「えー? 白いやつ?」
立ち上がってキッチンに向かい、腕を伸ばして棚を探している美也を後ろからぎゅっと抱き締めた。
「ひゃっ……」
美也がびっくりして肩をすくめる。
「会いたかったぁ…… ごめんな、遅くなって」
美也のふわふわした髪の香りを思いきっり吸い込んだ。
グレープフルーツの香りと一緒に『ペンギン』の厨房で作っていた料理の匂いがかすかに残っている。
「ペンギンは我慢強いって言ったでしょ? コーヒー淹れて、早く食べよ?」
美也は笑って答えた。
「キスしたい」
「ケーキが先」
「色気ないなあ……」
「あはは」
コーヒーの粉をコーヒーメーカーにセットし、しばらくして香ばしい匂いが立ち上ってきたが、美也は待ちきれなくてショートケーキを一口ほおばってしまった。
「コーヒー、待とうよ」
仕方がないなあというように零は笑うと、よっと手を伸ばして小さな紙袋を取り出した。
「はい、これ。遅くなったプレゼント」
フォークを口に含んだまま、美也が固まった。
憧れて憧れて、夢見た白いショッパー。
「アーカー?」
「うん。開けて?」
「えー? えー? どうしよう!」
美也はしばらく袋を凝視したあと、がさがさと中から小さな箱を取り出した。
「ゆび…… わ?」
ちょっと声が震えている。そして箱を開くなり
「うわ……」
呆然とした。
「どうして私がこれ欲しかったってわかったの?」
ヒマワリのモチーフがついたリング。一目見て心を奪われた。
「おばさんが教えてくれた。なんか花のついた指輪が欲しいって言ってたって。いろいろ見たけど、美也にはこれが一番似合うかなって思って」
零は箱から指輪を取り出した。
「はい、指出して」
「えっ、どの指?」
「えっ? 左手の薬指じゃないの?」
「えっ?」
美也は恐る恐る手を差し出した。その手をとったとき、零は吹き出しそうになった。
美也はじっとりと手汗をかいていた。
サイズが合うかな、と心配していたが、意外にも美也の指にぴったりと嵌った。
「うわー…… うわー…… すごーい…… ごめんね、高かったよね……」
美也は自分の指に光るダイヤを散りばめた指輪を見て感嘆の声を漏らした。
「うん、注文したときすごい仕事やり遂げた気がした」
美也はそれを聞いて笑った。
「ありがとう、一生大切にするね。私も零ちゃんの誕生日、何か用意するね。こんなすごいのは無理かもだけど」
「いらない。美也がいてくれたらいい」
「たらしだなあ、この人は」
美也は顔を真っ赤にした。
「美也にはいくらでも言う。好きだ。大好きだ。愛してる。美也を離さない!」
「もう……」
半分泣きそうな顔で尖らせた美也の唇に強引に唇を重ねた。
そこで火がついた。
コーヒーの香りがする中で、零は美也をソファに押し倒していた。
「零ちゃん、だめ、私、今日、そんな準備してない」
「準備なんかいらな……」
そう答えたところでスマホが鳴った。
嘘だろ…… こんな時間に電話してくるのは藤谷以外にない。
くそぉ、と思いつつ身を起こして画面をよく見もせず通話ボタンを押した。
「もしもし」
不機嫌MAXな口調になったかもしれない。
『もしもし…… 零さんですか? あの…… キリエです』
「小野さん?」
思いもかけない相手に零はびっくりした。
美也がその声を聞いて、少し強張った表情になったことに零は気づかなかった。
小野キリエがほとんどメディアに出ないので、ちらりと映る彼女の姿は話題を呼んだ。
零はキリエを伴わないままラジオの出演やテレビの音楽番組の出演やらで忙しくなった。
もっとも、顔が出ない活字宣伝のほうはキリエが担当したから不平等、というわけではなかったが。
一段落ついたあとキリエは台湾に行き、零もやっと一息ついたのは美也と約束した2か月にさらに2か月過ぎた頃だった。
合間に行った『ペンギン』で約束をして、美也は店が終わってからいそいそと零のマンションにケーキを持ってやってきた。
「早く零ちゃんとケーキ食べたかったんだー。ここの、美味しいよ」
美也はさっそくソファの前の小さなテーブルにケーキのボックスを開け、コーヒーを淹れに立った。
「零ちゃん、コーヒー豆どこー?」
「棚の上」
「えー? 白いやつ?」
立ち上がってキッチンに向かい、腕を伸ばして棚を探している美也を後ろからぎゅっと抱き締めた。
「ひゃっ……」
美也がびっくりして肩をすくめる。
「会いたかったぁ…… ごめんな、遅くなって」
美也のふわふわした髪の香りを思いきっり吸い込んだ。
グレープフルーツの香りと一緒に『ペンギン』の厨房で作っていた料理の匂いがかすかに残っている。
「ペンギンは我慢強いって言ったでしょ? コーヒー淹れて、早く食べよ?」
美也は笑って答えた。
「キスしたい」
「ケーキが先」
「色気ないなあ……」
「あはは」
コーヒーの粉をコーヒーメーカーにセットし、しばらくして香ばしい匂いが立ち上ってきたが、美也は待ちきれなくてショートケーキを一口ほおばってしまった。
「コーヒー、待とうよ」
仕方がないなあというように零は笑うと、よっと手を伸ばして小さな紙袋を取り出した。
「はい、これ。遅くなったプレゼント」
フォークを口に含んだまま、美也が固まった。
憧れて憧れて、夢見た白いショッパー。
「アーカー?」
「うん。開けて?」
「えー? えー? どうしよう!」
美也はしばらく袋を凝視したあと、がさがさと中から小さな箱を取り出した。
「ゆび…… わ?」
ちょっと声が震えている。そして箱を開くなり
「うわ……」
呆然とした。
「どうして私がこれ欲しかったってわかったの?」
ヒマワリのモチーフがついたリング。一目見て心を奪われた。
「おばさんが教えてくれた。なんか花のついた指輪が欲しいって言ってたって。いろいろ見たけど、美也にはこれが一番似合うかなって思って」
零は箱から指輪を取り出した。
「はい、指出して」
「えっ、どの指?」
「えっ? 左手の薬指じゃないの?」
「えっ?」
美也は恐る恐る手を差し出した。その手をとったとき、零は吹き出しそうになった。
美也はじっとりと手汗をかいていた。
サイズが合うかな、と心配していたが、意外にも美也の指にぴったりと嵌った。
「うわー…… うわー…… すごーい…… ごめんね、高かったよね……」
美也は自分の指に光るダイヤを散りばめた指輪を見て感嘆の声を漏らした。
「うん、注文したときすごい仕事やり遂げた気がした」
美也はそれを聞いて笑った。
「ありがとう、一生大切にするね。私も零ちゃんの誕生日、何か用意するね。こんなすごいのは無理かもだけど」
「いらない。美也がいてくれたらいい」
「たらしだなあ、この人は」
美也は顔を真っ赤にした。
「美也にはいくらでも言う。好きだ。大好きだ。愛してる。美也を離さない!」
「もう……」
半分泣きそうな顔で尖らせた美也の唇に強引に唇を重ねた。
そこで火がついた。
コーヒーの香りがする中で、零は美也をソファに押し倒していた。
「零ちゃん、だめ、私、今日、そんな準備してない」
「準備なんかいらな……」
そう答えたところでスマホが鳴った。
嘘だろ…… こんな時間に電話してくるのは藤谷以外にない。
くそぉ、と思いつつ身を起こして画面をよく見もせず通話ボタンを押した。
「もしもし」
不機嫌MAXな口調になったかもしれない。
『もしもし…… 零さんですか? あの…… キリエです』
「小野さん?」
思いもかけない相手に零はびっくりした。
美也がその声を聞いて、少し強張った表情になったことに零は気づかなかった。