藤谷も入れて、迷いに迷ったあげく零は花びらが放射状についた指輪を選んだ。
 で、最後の最後に美也の指輪のサイズを知らないことに気づいて藤谷に呆れられた。
「アーカーはショップでサイズ直ししてくれますよ」
 キリエの言葉に、何となくの記憶で美也の薬指に合いそうなサイズで選んだ。
 家で自分のスマホを使って注文したあとの達成感たるや。
 こんな高額な買い物、ましてやアクセサリーで。やったことがない。
 問題はいつ渡すかだ。
 悶々と考えて、やっぱり遅れても自分の手で渡したい、と思った。
 だから夜遅くて申し訳ないな、と思いつつ誕生日の午前0時を過ぎてから美也の家に電話をかけた。
「はい、川島です」
 電話に出たのが美也だったのでちょっとほっとした。
 おじさんが出たら、美也に代わってとはちょっと言いにくい。おじさんは好きなんだけど、さすがに。
「美也? おれ。遅くにごめん」
「零ちゃん? どうしたの?」
「あの…… 誕生日おめでとう」
「あ……」
 美也が声を漏らしたあと、ふっと息を吐くのがわかった。
「うん。ありがと」
「プレゼント、渡せなくてごめんな。準備してあるから会えるまで待ってもらっていい?」
「え、うそ? ほんとに?」
 美也の声が嬉しそうにうわずって聞こえる。
「うん、遅れてもちゃんと手渡ししたいと思って。2か月くらい先になっちゃいそうだけど……」
「……」
 ごめん。2か月も会えないんだ。ごめん、美也。
「いいよ。待ってる。楽しみにしてる。零ちゃんが準備してくれたんだもん、全然待てるよ」
「ごめんな」
「ペンギンは忍耐強いんだよ」
 ささやくような声が聞こえた。
「オフの日が決まったら教えるから…… あの…… うちに来てくれる?」
「零ちゃんのマンション?  大丈夫なの?」
「周り気にしないで美也の顔見たい」
「……」
 すん、と幽かに鼻をすする音がした。
「うん、わかった。ケーキ買ってく。一緒に食べよ?」
「うん」
「零ちゃん…… ありがとう。大好き」
 大好きの部分がひそひそ声になったので零は笑った。
「うん、おれも美也が好き」
 名残惜しさを感じながら電話を切ったあと、美也が「ひゃっほー!」と大声をあげ、父親に「なに大声出してんだ。びっくりするだろうが」と怒られたことを零は知らない。