「はぁ〜おっかしい。涙出てくるんだけど〜」
「いや、おかしいのはそっちでしょ」
人生でこんなに、というかほぼ初めて笑ったような気がした。
特に楽しいことがなくって、嫌なことだらけだった毎日を過ごしてきたから、初めてこんなにも笑った。
笑うって何か特別なものがないと笑えないものだと思っていた。
だけど、全然違った。特に何もなくても、ちょっとしたことでもこんなに笑える。
彼女と、希心と出会って僕は少し変わったような気がする。
同じような毎日を過ごしてきたのに、ここにきてから毎日が新鮮に感じる。
ドラマを見たこともなかった。屋上に行ってあんなに綺麗な夕日と景色を見たことがなかった。
それに、こんなにもバカみたいなことで笑ったことなんてなかった。
新しい体験ができたのも、希心のおかげなのかもしれない。
「なんか、新鮮だな〜」
「何が?」
『ふぅ〜』と笑い疲れたような感じで希心は僕の横に座ってベットに寝転がった。
「私、燈空が来る前はこんなにも笑ったことがなかった」
「えっ?」
僕は彼女の方を振り返った。
この感じ何回目なんだろう。
僕が想像している希心と実際の希心は違う。
それを希心の口から聞く度に僕は驚いている。
「だってさ、ずっと病院にいるんだもん。周りにいる人もみんな訳があって入院してるからこんなにもふざけられなかったんだよね。それに、同世代の人が同じ病室にきたことなんてなかったから。」
少し寂しそうにしながら希心は手を天井に上げた。
「だから、友達という友達ができたことなかったんだよね。だから、こんなにも笑ったことなんてなかった。だから、燈空は私にとって大切な人なんだと思う。」
なんで希心は僕にこんな話をしてきてくれるのだろうか。
僕みたいな人間が人に頼られるはずがないのに、なんで.....
「うわっ!」
ムクっと急に起き上がった希心に僕はびっくりしてしまった。
「うっそ〜!燈空今の話もしかして信じた?」
「なっ!なんだよ、冗談かよ。びっくりさせんなって」
子供のいたずらが成功して喜んでるみたいに、僕たちは無邪気に笑った。
この時の僕は、まだわかっていなかった。
希心の本当の心を.....