「というわけで、邪魔者はいなくなった。いよいよ今日から、楽しい楽しい工作タイム! トンネル掘りを始めるよ!」

「「「「「うぉぉぉおおッ!!」」」」」

 屋敷の中庭でお師匠様が腕を振り上げると、屈強な男たちが雄たけびを上げた。
 ガタイのいい男たちが、数十人も!
 この人たちは、トンネル作りの為にミッチェンさんが集めてくれた、建築ギルドの職人さんたち。
 僕は【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】で横穴を掘ることは出来るし、地面に石畳を敷き詰めることも出来るけど、壁や天井の舗装や光源の設置なんかは専門外だからね。

「ってことでノティア、頼むさね!」

「まったく……大人数を一度に搬送するのは疲れますのに、人使いの荒い人ですわ」

「ノティア様! この事業が成功すれば、巨大な商業圏が現れるのです! 何卒よろしくお願い致します!!」

 あはは、ミッチェンさんがノティアを拝み倒している。

「僕からもお願いだよ、ノティア」

「仕方ありませんわね。3、2、1――【瞬間移動(テレポート)】!」


   ■ ◆ ■ ◆


「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】――よし、この崖を真っ直ぐ掘ってくれ」

「はい!」

 繰り抜く高さと奥行きは、あらかじめ建築ギルドの方々から指示してもらっている。
 素人の僕が適当に掘って、崩落なんて起こしちゃったら笑えないもの。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

 というわけで、事前の取り決め通り、高さ4メートル、幅8メートルの半円を、数十メートル分掘る。

「って、うわわわ!?」

 いきなりごっそりと魔力が無くなって、思わずその場に座り込む。

「あぁ、ここにはオリハルコンがふんだんに含まれているからねぇ。ある意味、風竜(ウィンド・ドラゴン)の首を狩るより大変かもしれない。――【魔力譲渡(マナ・トランスファー)】」

 お師匠様に魔力を充填してもらっている僕の横では、

「は、ははは……ウワサには聞いていたが、本当に一瞬で【収納】するなんて!」

「しかも見ろよ、この断面……鏡みたいにツルッツルだ」

「さすがは英雄様……」

 驚きおののく職人さんたち。
 そして、

「【鑑定(アプレイズ)】! ふぅむ……本当にオリハルコンだな」

 上級補助魔法で壁面を確認しているひときわ筋肉質な方は、建築ギルドのギルドマスターさんだ。

「クリス様、こりゃ下手に人間の手を入れるよりも、クリス様がくり抜いたままの状態にしておいた方が、かえって頑丈ですぜ」

「さ、様は止めてくださいよ……」

「いや、そうは言いましてもねぇ」

 恐縮しきりな僕に苦笑して見せるギルドマスターさん。

「地面も頑丈ですし、このまま行きましょう! いやぁ、用意したセメントと石材と人間が無駄になっちまったが、まぁうれしい誤算というやつですな! ただ――…」

「ただ?」

「こうも硬いと、光源を置くための窪みを掘るのも一苦労でしてね」

「じゃあそれも、僕が掘りますね」

「本当ですか!? じゃあこの図面の通りに――」

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!」

「「「「「お~ッ!!」」」」」

 等間隔に発生した窪みを見て、感心しきりな職人さんたちだった。


   ■ ◆ ■ ◆


 途中、昼食を挟みながらも、どんどんと掘り進めていく。

「これ、向こう側に貫通した途端、西王国の人たちに攻撃されたりしませんよね……?」

 東西の交易所たる『街』を運営している僕が言う言葉じゃないかもしれないけど、東西の国はいま現在『休戦中』であって『終戦』も『講和』もしてないからね……。

「その点はご安心を」

 すぐ後ろについて来ているミッチェンさんが言う。

「『街』を懇意にして下さっている大店の行商人を通じて、炭鉱街の商人ギルドとは話がついております」

「さっすがミッチェンさん! 頼りになります!」

「いやぁ、それもこれも、すべては町長様のおかげですよ!」

「それを言うなら、すべてはお師匠様のおかげです」

「あはは。クリス様ならそう仰るでしょうね。あと、私にとっては、西の森に道が出来たことを手紙で教えて下さった、謎の情報提供者A氏もまた、かけがえのない恩人ですね」

「あぁ、そう言えばそんなことも仰ってましたねぇ」

 それこそ、もう1ヵ月ほども前の話だ。

 ――――1ヵ月か。
 いやぁ、ホント色々あったなぁ……100パーティー目から追放され、やけくそで西の森に入って一角兎(ホーンラビット)に殺されかけ。
 そこで、お師匠様に命を救われたんだ。

「……ん? なんだい人の顔をジロジロと」

 僕の後ろについて、適宜僕に【魔力譲渡《マナ・トランスファー》】をかけてくれるお師匠様が、怪訝そうな顔をする。

「いえ。お師匠様への感謝の心を忘れてはいけないな、と思いまして」

「気色悪い弟子さねぇ。頭動かすヒマがあったら、さっさと手を動かしな」

「あはは……【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】」

 こうして、東西の王国は、二つ目の道で結ばれた。
 争い? 起きなかったよ。ミッチェンさんの言う通り、ちゃんと西側とも話がついているようだった。