オーギュスの身柄は僕が預かることとなり、オーギュスには領主様から紹介された犯罪奴隷商に【隷属(スレイブ)】の魔法をかけてもらった。
 オーギュスには、『アリス書店』で働くように命じた。
 僕の屋敷には置きたくなかった……顔を合わせたくないから。
 シャーロッテは、オーギュスを死なせなかった僕の選択を喜んでいるようだった。

 こうして再び、平和な日常が戻ってきた。


   ■ ◆ ■ ◆


「トンネルを掘ろう」

 ある日の午前中。
 屋敷の居間でミッチェンさんからの定例報告を受けていると、やおらお師匠様がそう言った。

「「……トンネル?」」

 ミッチェンさんと僕は話を中断してお師匠様に傾注する。
 お師匠様の命令には絶対服従。
 そして変ちくりんな物語本()()に関しては、お師匠様のお言葉はすべからく金言。

「そうだ」

 お師匠様がマジックバッグから地図を取り出す。


地図:



「この通り、西の森に隣接するように大山脈が広がっていて、東西を分断している。そして、分断された向こうには大規模な炭鉱の街があるのさね」

「はい」

「そこで、この部分にトンネルを掘り、東西を繋げる。そして、難民村やら何やらでだいぶ北にも広がってきたこの街を、もっともっと北に伸ばす。そうすれば、この街・ロンダキア・炭鉱の街で循環する、巨大な商業圏が出来上がる」

「す、す、す、素晴らしぃ~~~~ッ!!」

 ミッチェンさんが大興奮する。

「いや、でもお師匠様、北の山脈は風竜(ウィンド・ドラゴン)が出るじゃないですか……また食べられそうになるの、嫌ですよ僕」

「根こそぎ狩ってやればいい」

「根こそぎって……いくらノティアでも無理でしょう。無理だよね、ノティア?」

 さっきから隣でお茶を飲んでいるノティアに尋ねると、

「わたくしでは無理ですわ。でも、いまのクリス君ならやれるのでは? 【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベル、7に上がったのでしょう?」

「え、ええっ、僕!? ムリムリ絶対ムリだって!」

「命令だ。やりな」

「ええっ!?」

 お師匠様がニヤリと微笑む。

「いままで手ほどきしてやった、集大成だ。『北の大山脈からの、風竜(ウィンド・ドラゴン)一掃』――それが、儂からお前さんへの試練(テスト)さね」

 こうして僕は、ドラゴン退治の旅に出ることになった。


   ■ ◆ ■ ◆


 ……で、小一時間後。

 お馴染みノティアの【瞬間移動(テレポート)】によって、僕らは北の山中にいる。
 メンバーはお師匠様、ノティア、僕という、これもお馴染みのもの。
 シャーロッテも来たがっていたけれど、『さすがに危険だ』と僕が止めた。
 空を見上げると、

 ギャギャギャギャギャッ!!

「うわ、いるぅ……」

「飛んでいますわねぇ」

 1体の風竜(ウィンド・ドラゴン)が空を飛んでいるのが見える。

「ひとまずあいつから【収納】しな」

「この距離でやれるかなぁ……」

 僕は空高くを飛んでいる風竜(ウィンド・ドラゴン)に向けて両手を掲げ、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 遠目ながらも一瞬、魔力光が発生したのが見えた――あれは【抵抗(レジスト)】されたときに発せられる光だ。

「ダメですお師匠様、ダメでした!」

「諦めるな! ほら来るよ!」

 風竜(ウィンド・ドラゴン)は怒り狂った様子でここまで降りてくる!

「生きたままの【収納】に失敗したんなら、次は首を狙いな!」

「ギャァアアアアオオォォォォォオオオオオオオオオオッ!!」

 風竜(ウィンド・ドラゴン)が地面に降り立ち、僕に向かって咆哮する!

「ヒッ――…」

 竜の(ドラゴン)咆哮(・シャウト)による【威圧(プレッシャー)】で、僕は動けない。

「【精神安定(リラクゼーション)】! ほらクリス君、早く!」

「う、うん――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】ッ!!」

 無我夢中で風竜(ウィンド・ドラゴン)に向けて魔力を放つ!





 ――――風竜(ウィンド・ドラゴン)の首から上が、消滅した。





 ズシィィィイン……

 重々しい音とともに、風竜(ウィンド・ドラゴン)の体が地に伏す。

「やった――…やったやったやりましたお師匠様!!」

「ああ、よくやったさね」

「これで僕もドラゴン・スレイヤー――あ、あれ?」

 足から力が抜け、尻もちをつく。

「おや、スキルに負荷がかかったことによる疲労のようさね? 【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】のスキルレベルはどうなったい?」

「はい。ステータス・オープン!」

 そこには、『スキルレベル8』の文字が!!

「や、やりましたお師匠様! レベル8です!!」

「っしぃ! 神級目前さね!」

 お師匠様が小躍りする。可愛い。

「よぉし、次は生きたままの【収納】に挑戦だよ!」

「は、はい……」