「ここは俺らに任せな!!」

 急に、隣から声がした。

「――えっ!?」

 見ると、いつの間にかAランク冒険者の『(ホワイト)(ファング)』フェンリスさんが壁の上に立っている。
 そして、

「【飛翔(レビテーション)】!」

 その隣に、さらにふたり――前衛職っぽい男性と魔法使いっぽい女性が降り立つ。

「あのベヒーモスは俺たちが対処する。だから他の魔物たちは頼んだぜ、町長サン!」

「だ、大丈夫なんですか!?」

 フェンリスさんがニカッと笑う。

「誰に向かって言ってんだ? 天下のフェンリス様だぜ! ――行くぞお前ら!」

「おうよ」

「はい!」

 フェンリスさんとそのパーティーメンバーが十メートルもある壁の上から飛び降りる!
 フェンリスさんはもちろん、他のふたりも悠々と着地する――きっと【闘気(ウェアラブル・マナ)】だ。
 フェンリスさんが盾をずしんと地面に打ち付け、

「来いやぁあああッ!!」

 叫ぶと同時に、ベヒーモスへ強烈な【挑発(プロボーク)】――魔力の衝撃をぶつける!

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析(アナライズ)】――【視覚共有(シンクロナイズド・アイ)】。クリス、ぼけっとしてないでベヒーモス以外の魔物を【収納】しな!」

 隣でお師匠様が言う。

「量が量だ。空間ごと【収納】したら突風が起きかねないから、儂の【万物解析(アナライズ)】に従いな」

「はい!」

 僕は目を閉じ、

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!!」

 果たして城壁に取り付いていた魔物たちがごっそりと姿を消す。
 同時に激しい頭痛と丹田の痛み。
 けれど、魔物はまだまだ森の中から湧いて出てくる!

「【魔力譲渡《マナ・トランスファー》】。つらいだろうが、魔物がいなくなるまで【収納】し続けるしかないさね」

 壁の下では、フェンリスさんたちのパーティーがベヒーモスと互角以上に戦っている。
 フェンリスさんが引きつけ、ベヒーモスの吶喊を盾でかち上げ、空いた首元を剣士の男性が狙う。
 魔法使い女性は、回復・支援・攻撃と各種魔法で戦いを有利に進める。

「そら、第二波が来るよ!」

「はい! ――【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】!!」

 壁に殺到してくる魔物の群れを再び【収納】。
 ゴブリンやオーク、オーガと言った魔物たちは梯子や弓矢と言った道具を使うから、いくら10メートルの城壁があるとは言っても突破されかねない。
 だから、一匹残らず【収納】しなければならない。

「第三波だ!」

「はい――…」

 長い長い戦いが、始まる。


   ■ ◆ ■ ◆


 十何回――いや、何十回【収納】しただろう?
 ……どれだけの時間が経っただろうか。
 強烈な頭痛で何度も気を失いそうになり、その都度ノティアの【精神安定(リラクゼーション)】で覚醒した。
 魔物の波は止まず、取りこぼしが目立つようになり、街の中に入り込む魔物も出てきたけれど、幸いにして冒険者が集まって来て対処してくれているようだった。
 フェンリスさんたちもベヒーモスの封じ込めには成功しているけれど、決定打は打てないでいるみたいだ。

「また来たよ……やれるかい?」

 お師匠様の声を受け、目を閉じる。
 森の中からオオカミ系の魔物が大挙して押し寄せてくる。

「は、はい……あ、【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】――」

 頭が痛い!! 割れそうだ――

「【収納】出来ていないよ!?」

 そんな――失敗?

「あ、【無制限(アンリミテッド)――…うっ!?」

 強烈な吐き気。

「げぇっ……」

 出てきたのは、大量の血液だ。
 丹田が軋むように痛む。

「【大治癒(エクストラ・ヒール)】!! ――アリスさん、もうさすがにクリス君が限界ですわ!!」

「だったらどうするって言うさね!?」

「おふたりを一度壁の内側に降ろしてから、わたくしが行きます。アリスさんは冒険者ギルドで腕利きを集めてくださいまし」

「……死ぬ気かい?」

「クリス君に死なれるよりはマシですわ。それにわたくしは、本当にいざとなれば【瞬間移動(テレポート)】で戻って来れますし」

「ノ……ティア?」

 ノティアが微笑む。
 彼女は僕の頭を撫で、

「そんな顔しないで下さしまし。さくっと倒して、戻って参りますわよ」

 そんな……ダメだ、ノティア。

「ぼ、僕は大丈夫だから。【無制限(アンリミテッド)――うっ」

 ……また、吐血。
 あぁ、ダメだ……丹田が軋むばかりで、魔力を上手く引き出せない。
 でも、ここで僕が頑張らなきゃノティアが死んでしまうかも知れない。
 そんなのはダメだ。絶対にダメだ。
 壁の下では、オオカミ系魔物の大群が壁に突進をしていて、さらにその向こう、森の中からはさらなる四足獣の魔物たちが出て来つつある。

「あぁ……神様、アリソン様――…」

 どうすれば――…