病院を建てた。
 建屋はミッチェンさんに適当な空き家を手配してもらって。
 お医者さんは、病魔除去担当の僕と、治癒魔法担当のお師匠様とノティアが勤め、看護はシャーロッテと新たに雇った孤児出身者多数が。
 次々と運ばれてくる疫病患者の病魔を【収納】し、お師匠様とノティアが治癒魔法で癒していく。
 驚いたことに、ノティアは【広域大治癒(エリア・エクストラ・ヒール)】が使えず、【(エクストラ)治癒(・ヒール)】もまた、お師匠様からの魔力充填がなければ、一日数回で息切れした。

 Aランク冒険者の魔法職をして!
 ……お師匠様がいかにバケモノか、ということなんだろう。

 開院当日で『街』の疫病患者はほぼほぼ居なくなり、2日目、3日目も慌ただしく動き回り、そして気がつけば冒険者のけが人が増え、減ったと思ったら城塞都市の病人が増えた。
 明らかに、『街』とは無関係の人たちが治療目当てで来てる。
 ……無償で治癒して回っているんだもの。当然と言えば当然か。

 そして城塞都市の病人も治し切ったころから、妙に身なりの良い人たちが増えた。

 聞けば全国津々浦々からウワサを聞いて、【瞬間移動(テレポート)】持ちの旅客業冒険者にここまで運んでもらってきた、大店の商人やら貴族様やらだとのこと。

『さすがに金は取るべきさね』

 ってお師匠様に言われたから病院や教会の治療費の価格帯をミッチェンさんに教えてもらい、請求するようにした。
 それでもなお、次から次へと裕福な病人やらけが人がどんどん来るんだよね。

「【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】! 減りませんねぇ、お師匠様」

「【(エクストラ)治癒(・ヒール)】――まぁ、言っちゃなんだがお前さんの【無制限(アンリミテッド)収納(・アイテム)空間(・ボックス)】と儂の【(エクストラ)治癒(・ヒール)】の合わせ技は、どんな病気も瞬く間に治す一級品だからねぇ」

 などと治療の傍らぼやいていると、

「何をぐずぐずしておる! 儂の番はまだか!!」

 と、裕福そうな商人が待合室から診察室に入ってきた!

「患者様、お待ちください!」

 看護服姿の――カワイイ――シャーロッテが制止しようとするも、聞いてくれない。
 僕が立ち上がろうとすると、

「どけっ、平民風情が!」

 今度は見るからに貴族様と分かる、立派なカツラを被ったふくよかな男性が乱入してきた!

「そこの(じじい)など捨ておいて、さっさと私を診るのだ!」

「はんっ――」

 すると今度は、『爺』と罵られた身なりの良い老人――いま僕らが診ている患者さん――が失笑して、

「新興の男爵風情が偉そうに! 由緒正しい子爵家たる私こそが、真っ先に治療を受けるべきであろう!?」

 ……あぁ、もうぐちゃぐちゃだぞ。
 最初に乱入してきた商人っぽい人は部屋の隅で震えてるし。

「おい小僧! さっさと私の治療に移れ!」

「いえ、あの……恐れながら順番は守って頂けますと――」

 僕の諫言に、

「何ぃっ!? 無礼討ちにされたいか!?」

 男爵様が腰の拳銃に手を伸ばした!!

「あわ、あわわわ……あの、恐れながら患者様、あちらの方を先に治療させて頂いても?」

「なんだと貴様!? あんな小童のことなど無視して私の治療に専念しろ! それとも、不敬罪に問われたいのか?」

「ヒッ……」

 ど、どどどどうすれば――…

「あっはっはっ!」

 とそのとき、聞き覚えのある声とともに、よくよく見慣れた――丸一週間見続けた顔が入ってきた!

「そこのお前とお前、クリスには手を出さない方がいいぞ? 各界のギルドと、この余――ルキフェル13世を敵に回したくなければな!」

「「へ、陛下ぁ!?」」

 泡を食って平伏する貴族様方。
 ……なんだよ、全然元気なんじゃないか。