「ここから出して! 私たちの村に帰るのよぉっ!!」
「こんなところにいたら、呪い殺されちまう!!」
西端の城門は大混乱に陥っていた。
閉じられた門と、それにすがりつく大勢の難民。
そして、必死に門を閉じている警備員の方々。
「門は閉鎖してるんですね」
「……はい。彼らが西王国に戻ったとしたら、きっと反逆罪で処刑されてしまうのでしょう? いまはあのようにして正気を失っているようですが……見捨てるわけにもいきませんよ」
「良い判断だと思いますよ。ということは、東の門も?」
「はい。城塞都市へ逃げようとする難民を、押しとどめております。城塞都市に病魔をバラまかれでもしたら、それこそ領主様にこの場所を取りつぶされてしまいます」
「さすがはミッチェンさん」
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
お師匠様が難民たちを魔法で解析して、
「いるね。こりゃ感染症さね……こんだけ体中を侵されてれば、さぞ苦しかろうさ」
「カンセンショウ? まぁいいや、治せますか?」
「儂の【大治癒】だけだと細菌を抑え切れないね」
「サイキン?」
「病魔のことさね」
「あぁ、はい。あ、じゃあ以前、リュシーちゃんのお父さんの毒を【収納】したみたいにやれば――」
「正解だ」
お師匠様が嬉しそうに微笑む。
お師匠様に褒められて、僕は鼻高々だ。
「まず、儂の【万物解析】補助付きの【無制限収納空間】で、彼らの病魔を取り除き、その上で儂が【大治癒】を使えば、すぐに快復するだろう」
「良かった! ――では」
僕は大きく息を吸い込んで、
「難民のみなさん!」
声を張り上げた。
難民の方々が、うつろな表情で振り返る。
「この病は、呪いでも瘴気でもありません! その証拠に、我がお師匠様の治癒魔法によって、あっという間に治療して見せましょう!」
は、恥ずかしい……けどパフォーマンスは大事だ。これも町長の仕事!
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! 【視覚共有】」
僕は目をつぶり、難民たちの体を蝕むモヤモヤ目がけて、
「【無制限収納空間】!!」
モヤモヤが消えて、
「……尊き生命の息吹とともに・光の神イリスの奇跡をここに示せ――広域大治癒】ッ!!」
温かな治癒の光が、難民の皆さんを包み込む。
「「「「「……………………あれ?」」」」」
呆然となる、難民の方々。
「お、お腹が痛くない……?」
「苦しくなくなった……」
「どうですか、我がお師匠様のお力は!!」
胸を張りつつも、一安心だ。
■ ◆ ■ ◆
東門も、同じようにして鎮圧した。
移動にはノティアの【瞬間移動】があるからスイスイだね。
そうして本丸、難民村に踏み入れてみたのだけれど――。
「ここは呪われた土地なんだよ!!」
「こんな病気だらけの村に住めるわけねぇだろ! さぁ帰った帰った!」
ゴロツキどもが、良からぬウワサを喧伝して回ってる!!
「お前ら、止めろぉ!」
僕が叫びながら村に入ると、
「「「「「ヒッ、く、首狩り族ぅ!?」」」」」
ゴロツキどもが、三々五々と逃げ去っていく。
…………が、唯一逃げなかった奴がいた。
「はははっ、ざまぁねぇな!!」
壮絶な笑みを見せながら、僕を憎々しげに睨みつける少年――…オーギュス。
「ご覧の通り、てめぇがちょっと離れた間に、街は病魔まみれさ!」
「――――……」
「こんな場所に街なんて作るからだ! 何もかもお前の責任だ――クリス」
「――…」
「どうやって責任取るんだ? この疫病が城塞都市にまで及んだら、お前はきっと縛り首だ!」
「…………だったら、治せばいいだろ?」
僕は負けじと、オーギュスを睨み返す。
「お師匠様」
「あいよ――【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
「【無制限収納空間】」
難民村を覆いつくす病魔を、軒並み【収納】した。
続いて、
「……光の神イリスの奇跡をここに示せ――広域大治癒】ッ!!」
お師匠様による、村全体を覆った、広大な範囲に及ぶ【大《エクストラ》治癒】!!
「皆様ぁ!!」
ノティアに【拡声】の魔法をかけてもらい、難民村全土に声を届ける。
「たったいま、わたくし、町長クリスとそのお師匠様アリス様による治癒魔法を村全土にかけました!! 呪いとか瘴気とかいうのはすべてウソです!!」
恐る恐る、といった様子で、各家の中から難民さんたちが出てくる。
「ほら、皆さんもお感じの通り、病はすっかり治りました!!」
できるだけ力強く、僕は叫ぶ。
「大丈夫です! 僕は――町長たるわたくしクリスは、皆さんの生命と財産を守ります!!」
そう、高らかに宣言して。
僕は…………去り行くオーギュスの背を、睨みつけた。
「こんなところにいたら、呪い殺されちまう!!」
西端の城門は大混乱に陥っていた。
閉じられた門と、それにすがりつく大勢の難民。
そして、必死に門を閉じている警備員の方々。
「門は閉鎖してるんですね」
「……はい。彼らが西王国に戻ったとしたら、きっと反逆罪で処刑されてしまうのでしょう? いまはあのようにして正気を失っているようですが……見捨てるわけにもいきませんよ」
「良い判断だと思いますよ。ということは、東の門も?」
「はい。城塞都市へ逃げようとする難民を、押しとどめております。城塞都市に病魔をバラまかれでもしたら、それこそ領主様にこの場所を取りつぶされてしまいます」
「さすがはミッチェンさん」
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
お師匠様が難民たちを魔法で解析して、
「いるね。こりゃ感染症さね……こんだけ体中を侵されてれば、さぞ苦しかろうさ」
「カンセンショウ? まぁいいや、治せますか?」
「儂の【大治癒】だけだと細菌を抑え切れないね」
「サイキン?」
「病魔のことさね」
「あぁ、はい。あ、じゃあ以前、リュシーちゃんのお父さんの毒を【収納】したみたいにやれば――」
「正解だ」
お師匠様が嬉しそうに微笑む。
お師匠様に褒められて、僕は鼻高々だ。
「まず、儂の【万物解析】補助付きの【無制限収納空間】で、彼らの病魔を取り除き、その上で儂が【大治癒】を使えば、すぐに快復するだろう」
「良かった! ――では」
僕は大きく息を吸い込んで、
「難民のみなさん!」
声を張り上げた。
難民の方々が、うつろな表情で振り返る。
「この病は、呪いでも瘴気でもありません! その証拠に、我がお師匠様の治癒魔法によって、あっという間に治療して見せましょう!」
は、恥ずかしい……けどパフォーマンスは大事だ。これも町長の仕事!
「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】! 【視覚共有】」
僕は目をつぶり、難民たちの体を蝕むモヤモヤ目がけて、
「【無制限収納空間】!!」
モヤモヤが消えて、
「……尊き生命の息吹とともに・光の神イリスの奇跡をここに示せ――広域大治癒】ッ!!」
温かな治癒の光が、難民の皆さんを包み込む。
「「「「「……………………あれ?」」」」」
呆然となる、難民の方々。
「お、お腹が痛くない……?」
「苦しくなくなった……」
「どうですか、我がお師匠様のお力は!!」
胸を張りつつも、一安心だ。
■ ◆ ■ ◆
東門も、同じようにして鎮圧した。
移動にはノティアの【瞬間移動】があるからスイスイだね。
そうして本丸、難民村に踏み入れてみたのだけれど――。
「ここは呪われた土地なんだよ!!」
「こんな病気だらけの村に住めるわけねぇだろ! さぁ帰った帰った!」
ゴロツキどもが、良からぬウワサを喧伝して回ってる!!
「お前ら、止めろぉ!」
僕が叫びながら村に入ると、
「「「「「ヒッ、く、首狩り族ぅ!?」」」」」
ゴロツキどもが、三々五々と逃げ去っていく。
…………が、唯一逃げなかった奴がいた。
「はははっ、ざまぁねぇな!!」
壮絶な笑みを見せながら、僕を憎々しげに睨みつける少年――…オーギュス。
「ご覧の通り、てめぇがちょっと離れた間に、街は病魔まみれさ!」
「――――……」
「こんな場所に街なんて作るからだ! 何もかもお前の責任だ――クリス」
「――…」
「どうやって責任取るんだ? この疫病が城塞都市にまで及んだら、お前はきっと縛り首だ!」
「…………だったら、治せばいいだろ?」
僕は負けじと、オーギュスを睨み返す。
「お師匠様」
「あいよ――【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
「【無制限収納空間】」
難民村を覆いつくす病魔を、軒並み【収納】した。
続いて、
「……光の神イリスの奇跡をここに示せ――広域大治癒】ッ!!」
お師匠様による、村全体を覆った、広大な範囲に及ぶ【大《エクストラ》治癒】!!
「皆様ぁ!!」
ノティアに【拡声】の魔法をかけてもらい、難民村全土に声を届ける。
「たったいま、わたくし、町長クリスとそのお師匠様アリス様による治癒魔法を村全土にかけました!! 呪いとか瘴気とかいうのはすべてウソです!!」
恐る恐る、といった様子で、各家の中から難民さんたちが出てくる。
「ほら、皆さんもお感じの通り、病はすっかり治りました!!」
できるだけ力強く、僕は叫ぶ。
「大丈夫です! 僕は――町長たるわたくしクリスは、皆さんの生命と財産を守ります!!」
そう、高らかに宣言して。
僕は…………去り行くオーギュスの背を、睨みつけた。